2024年11月21日(木)

解体 ロシア外交

2015年5月11日

 欠席の理由については、公には「国内事情」と説明されており、それにも一定の説得力はある。金氏は国内政治の統制にまだ成功しておらず、身内を含む粛清も相次いでいる中、留守の間にクーデターが起きることを強く危惧しているというのである。一方、対中関係のバランスに配慮して訪露を取りやめたという説も有力だ。最後に、ロシアに大規模経済援助や外交上の特別の扱いを求めたが拒否されたためという説まであり、明確な理由は明らかになっていないのが実情だ。

 結局、北朝鮮から第一書記の代理として、金永南最高人民会議常任委員長が式典に出席することとなった。金永南は、朝鮮労働党序列2位で、対外的には国家元首の役割を担ってきた重鎮である。また、5月6日には、平壌のロシア大使館においてプーチン大統領名義で、北朝鮮の抗日闘士7人に対独戦勝70周年の記念メダルを授与する式典も行われた。両国は植民地支配からの解放・対独戦勝でそれぞれ70年の節目を迎える今年を「親善の年」と定めており、これらの動きは、その一環であると共に、第一書記の式典欠席の穴埋めを双方がしようとしているように見える。

ロシアの勢力圏に足を踏み入れる中国

 他方、したたかさが目立ったのが中国の習近平総書記だ。習氏にとって、金正恩の欠席は嬉しいニュースだったに違いなく、また、訪露に先駆けて、氏は5月7日にカザフスタンを電撃訪問したのである。

 カザフスタンは、関税同盟やCIS安全保障条約機構はじめ、ロシアが主導する重要な同盟に全て参加するなど、ロシアにとって盟友的存在であったが、近年、中国がロシアの勢力圏、とりわけ天然ガスパイプラインの敷設に代表されるように、中央アジアへの影響力を拡大している中、ロシアにとって中国と中央アジア諸国の関係が深化することは何としても避けたいことであった。しかも、ウクライナ危機をめぐる対露制裁などでロシアの経済が逼迫すると、カザフスタンはロシアとの通商を制限するようになり、「貿易戦争」が勃発したとまで報じられるようになり、盟友だったはずの両国は、最近緊張関係にあった。

 そんな中での、しかも予定になかった習氏の突然のカザフスタン訪問は、ロシアにとって極めて不快なものであった。その訪問では、習氏とナザルバエフ大統領が「一帯一路」の中枢となるインフラや物流についての議論、シルクロード経済ベルト構想の具体的意見交換を行ったほか、習氏はAIIB参加を真っ先に表明したカザフスタンに謝意を表明したという。

 なお、習氏はモスクワでの式典終了後、やはりロシアにとって盟友ながら、ウクライナ危機をめぐる経済問題で関係に亀裂が入りつつあるベラルーシにも訪問することとなっており、相次ぐロシアの勢力圏、しかも「盟友」に足を踏み入れる中国の動きがロシアにとっては面白くないことは間違いない。

 加えて、三国歴訪への出発に先立ち、習氏はロシアメディアに「中露両国民は第2次世界大戦の歴史を否定したり歪曲したりするたくらみや行動に断固として反対する」と強調する文書を送った。それは、戦後70年談話を発表する予定の安倍晋三首相へのけん制だと考えられている。


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