2023年12月6日(水)

都会に根を張る一店舗主義

2015年6月10日

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島村菜津 (しまむら・なつ)

ノンフィクション作家

東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。卒業後イタリアへ留学。十数年にわたって取材したイタリアの食に関する『スローフードな人生!』(2000年、新潮文庫)が日本のスローフード運動の先駆けとなる。近著に『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(17年、誠文堂新光社)。
 

 土日は地元の人で混み合うが、狙い目は月・木だと大将から知らされていたこともあり、店は空いていた。そして、この初日、食通の常連さんと一緒だったこともあり、それは幸福なひとときを過ごした。

 高砂という純米酒と、突き出しの甘エビの揚げ物と空豆をいただいていたら、ここで働いて5年目のお弟子さん、目黒一成さんから差し出されたのは、ギネスに申請すべきでは、というほどの極小寿司! よく見れば、マグロ、タイ、タマゴ、カッパ巻、ガリまでついている。これを目にしたとたん、咄家さんが目を白黒させていたあるお散歩番組の一場面が忽然と蘇った。

ギネス並みのミニチュア寿司。混み合わない日だけ、初の女性客へのサービス

 「ああ、テレビで観た! この店」

 このどうしようもなくミーハーな客に、大将の菅田勇樹(50歳)は笑顔で答える。

 「ものすごく混んでない日で、女性の初めてお客さんがいらした時にだけ、サプライズでお出ししているのです」

大将の菅田勇樹さん

 このサービス精神! エンターテイメント性の高さ! 遊び心! 大手チェーン店が武器とし、町の商店街に残念ながら足りないことが多いのは、これである。

 聞けば、大将は、2003年、当時、高視聴率を誇っていたTVチャンピオンの「全国巻き寿司職人選手権」でみごとに優勝。以来、テレビの露出も多いという。

 「巻き寿司、あの頃に流行ったんですよ。にぎり寿司は、伝統を重んじるのに対して、巻き寿司は、クリエイティブ。でも、あの番組、参加した人たち、みんな凄い人だったし、勉強になったよ」


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