京都のお寺に見たゴルフ場設計の原点
そこで読者の皆さんは、ゴルフ場の設計というのはどんなことをするのか、と気になっているのではないだろうか?単に建設会社の人達が造っていると思っている人がほとんどだろう。
しかしながら単なる草原や山々が、ゴルフコース設計者の手にかかると、周辺の自然と調和した、緑の芝のアートの世界となる。今回のチェンバーズベイは、以前は砂煙が舞う、採石場だった。採石場に比べてしまうと、できあがったチェンバーズベイは、まるで異次元の自然環境の創造となっている。
周囲の青い海原を背景に、なだらかな草原、そしてプレーヤーに牙をむくバンカー群と緑のマウンド群、そして綺麗なうねりのグリーンとなっているからだ。これらのセッティングはすべてゴルフコース設計者という名のクリエイターの手によるものなのだ。
そしてこの18ホールには必ず18のストーリーがある。そのあたりをジョーンズJr.さん本人に聞いてみた。
「元々ゴルフは自然との闘いのスポーツ、自然にそぐわない環境にしてはいけないんだ。だから遠くには、海や山々が見え、その海や山々からコースに続く地形に合わせるようにマウンドを造り、そのマウンドに合わせてなじむような形のグリーンを造る。そのグリーンの形に自然に当てはまるようなバンカーを付ける。
あるいは大きな池や海の水面に、周辺の山々やマウンドそしてグリーンのピンが映るように配置する手法も取り入れたりする。京都にある山々を背景にしているお寺などは、この自然を取り入れた風景をつくるという点では同じような手法だね。
龍安寺の石庭などは、砂と石の庭を大海原や世界にたとえていて、美しい自然を表現している。実に素晴らしいと思う。私も日本では22コース設計したが、ほとんどのコースでこの京都のお寺や庭を題材にした雰囲気を使わせてもらった。
さらに大事なことは『わびさびの精神』。京都で学んだことは、この自然の厳しさの中に身を置きながら、精神修養を行い、社会の荒波を乗り越えていくという強い精神を身につける修業を行う、という点だ」
全米オープンが開催されるチェンバーズベイにもそのわびさびの精神を取り入れたという。15番ホールグリーン後ろの海を背景にした位置に、このコースにたった1本ある松の木を残した。自然と戦う象徴のモニュメントとして残したという。「プレーヤーに勇気をもって戦ってほしいという意味だよ」とまで言う。