同議員はまた、サンクトペテルブルグ議会の議員で、Facebookをロシアで遮断するよう求めているヴィタリー・ミローノフ議員についてもコメントした。ミローノフ議員によれば、Facebookの運営当局はユーザーのアイコンをLGBTのレインボーカラーにできる機能を提供することでロシア連邦の方に明確に違反していると主張している。
(翻訳終わり)
ドブルィニン議員の発言で注目されるのは、同性愛者の権利が認められるのは世界的な潮流であって、そこから目を背けてはならない、という基本認識であろう。
この意味では同議員の発言はこれまでになくリベラルなものとも取れる。
しかし、発言内容の詳細をよく見てみれば、同性愛者の権利拡大は必ずしも肯定的に捉えられていない。同性愛者の権利拡大が進めば保守層の憎悪が余計高まり、結果的に「ロシアの安全保障」に脅威をもたらすという点がドブルィニン議員の核心的な関心である。
チェチェンをはじめとする北カフカスでの対テロ戦争によってロシア社会でカフカス系人種への憎悪が高まるなど、ロシアには無数の社会的亀裂が深まっており、ロシア政府はこうした状況を危惧している。こうしたなかで、新たな亀裂を顕在化させることは得策ではない、という計算がその背景には働いていると見られる。その意味では、同性愛の権利擁護も、これに対する攻撃も等しく安全保障上の脅威、ということになる。
そもそもドブルィニン議員の提起している「問うな、語るな(Don’t ask, don’t tell)」原則は、米軍が1993年に導入したものである。これは当時のクリントン政権が同性愛者に対して軍務を解放するにあたり、保守派の非難を回避するため、最初から同性愛的傾向の有無を問題にしないという一種の折衷案であった。
我が国の国立国会図書館によれば、この原則は「同性愛者(両性愛者を含む)の軍務禁止を規定しつつも、軍内で自身の性向を公にせず、同性愛行為を行わず、公に同性のパートナーを持たないのであれば、除隊はさせない」というものであったが、かえって同性愛者差別につながるとしてオバマ政権下の2010年に撤廃された(詳しくは以下を参照。「同性愛者の軍務禁止法の廃止」『外国の立法』2011年2月< http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02460202.pdf>)。
このようにしてみれば、ドブルィニン議員の提案が決して前向きなものでないことは明らかであるし、従来からの「非伝統的な性的関係のプロパガンダの禁止」とも矛盾するものではない。むしろ、米国の連邦最高裁判決の衝撃を和らげるため、軍隊内での「臭い物に蓋」的な手法を社会全体に適応することで、同性愛の問題をそもそも議題に載せないことが目的と考えられよう。
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