2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年7月8日

出典:蔡英文,‘Taiwan Can Build on U.S. Ties’(Wall Street Journal, June 1, 2015)
http://www.wsj.com/articles/taiwan-can-build-on-u-s-ties-1433176635

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 蔡英文(民進党主席、次期総統選候補者)の最近の訪米は、特段の問題を生じることなく、全体として順調に進展したと見られています。前回の総統選挙(2012年1月)の直前の蔡英文の訪米は米側を十分に納得させられませんでしたが、今回は、その轍を踏まないよう、蔡英文と民進党は事前に米側との間でかなりの根回しを行ったようです。蔡が打ち出した主張のいくつかは、この寄稿文にまとめられていますが、要するに両岸関係の基礎を「現状維持」に置くということです。6月3日のCSIS(戦略国際問題研究所)での演説ではそう明言しています。

 台湾民進党はもともと党綱領で台湾独立を掲げて来ましたが、その後、独立のトーンをやや抑え、「台湾はすでに事実上独立した国である」との「前途決議案」を打ち出しています。

 米国としては、蔡英文が民進党本来の「独立」指向の政策を全面的に打ち出すことなく、対米、対中関係を総合的に考慮して、「現状維持」というスローガンにとどめたことを積極的に評価したものと考えられます。

 蔡としては、国民党と中国の間の関係を規定する「92年コンセンサス(「一つの中国、各自解釈」)」の同床異夢を回避し、「現状維持」に的を絞りました。もちろん、台湾独立を主張する人々から見れば、「現状維持」は生ぬるいとする批判もありますが、前回の総統選挙を考慮すれば、これもやむを得ないとの声が台湾内部にはあります。

 他方、中国としては、蔡の「現状維持」は台湾独立への一歩ではないかとの強い猜疑心を抱いていますが、蔡の米国における発言ぶりは総じて慎重であり、中国としても文句を付ける余地が殆どありません。

 今回の蔡の訪米については、台湾や米国のメディアからは、「蔡は米国による面接試験を受けるため訪米した」と評されました。これを受けて、駐米中国大使が「蔡英文は米国による面接試験を受ける前に13億人の中国人による面接を受けるべきだ」と公言したのに対し、蔡は平然と「私の面接試験官は2300万人の民主化した台湾人である」と受け流しています。

 つきつめて考えれば「現状維持」の意味は必ずしも明確ではありませんが、その内容をあまり具体的に述べることは、対米国、対中国との関係であまり賢明ではない、との配慮が、この寄稿文からは窺われます。しかし、上述のCSISでの演説で、「台湾に自由、民主主義の価値が根付いている」と述べるなど、譲れないポイントはしっかりと押さえていると評価してよいでしょう。

  
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