2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2015年7月7日

 だが、陸上自衛隊はヘリコプター以外に離島に部隊等を機動展開させる手段を持たない。これでは島嶼防衛も海上・航空優勢拒否も全うできない。多数の隊員や多量の装備・物資等を迅速に輸送できる高速輸送艇を陸上自衛隊が自ら保有し、主要島嶼に配備しておく必要がある。また、こうした高速輸送艇は既に述べた機雷敷設にも活用できる。

 とはいえ、国の財政事情や少子化の中で、島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させるための隊員の増加や予算の増額は多くを期待できない。したがって、陸上自衛隊全体として組織のスリム化や装備の効率化を進め、同時に陸海空自衛隊による統合を進めて必要な資源を捻出する必要がある。ここで重要となるのは、陸海空の各自衛隊が南西諸島における島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させるために如何に役割を分担するかという共通認識であろう。

もうひとつの抑止力:信頼醸成

 エアシー・バトルや第1列島線防衛は「懲罰的抑止」や「拒否的抑止」によって有事を防ぐことが狙いであり、これらの重要性は言うまでもない。しかし、有事を防ぐ上で「信頼醸成」を忘れてはならない。これはクレピネビッチの論文の範囲を超えるテーマである。

 陸上自衛隊は本年6月20日から7月1日までの間、モンゴルにおいて多国間共同訓練(カーン・クエスト15)に参加したが、そこでは自衛隊員と中国軍人とが肩を並べて訓練し、自衛隊員が中国軍人にアドバイスを与える様子が見られた。日中関係に確執が見られる中、こうした友好的な姿は信頼醸成上、画期的である。

 加えて、陸上自衛隊と中国軍には地域における災害救援・人道支援など協力できる分野はあり、これを信頼醸成に活用しない手はない。陸上自衛隊は南西諸島における島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させる努力を続けつつ、中国軍との信頼醸成に向けた努力をも続ける必要がある。

  
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