2024年4月19日(金)

WEDGE REPORT

2015年7月7日

なぜ陸上自衛隊に期待がかかるのか?

 第1列島線に前方展開した米軍および第1列島線諸国軍の陸上戦力はクレピネビッチが期待している役割を果たせるのか。米陸軍が第1列島線に前方展開している戦力は小規模で、上記の役割に直接寄与できるのは沖縄に駐留しているパトリオットミサイル部隊、特殊部隊等であろう。

 ちなみに、クレピネビッチは米海兵隊の戦力は考慮していない。沖縄に駐留する米海兵隊を含めて考えると米軍の貢献度は高まる。また、第1列島線諸国の陸上戦力については日本とベトナムに期待を寄せているものの、フィリピンに関しては米陸軍が今後より大きな役割を果たさざるを得ないと述べている。

 陸上自衛隊についてクレピネビッチは、米軍の支援が無くても中国軍の海上・航空優勢獲得を拒否する能力を大幅に強化できると断じている。これは、陸上自衛隊が南西諸島における防衛態勢を逐次強化しているからであろう。陸上自衛隊はすでに沖縄に地対空ミサイルを配備し、地対艦ミサイルを島嶼に展開する訓練を実施している。また、与那国島への沿岸監視部隊の配置を決定し、奄美大島、宮古島および石垣島に警備部隊の配置を検討している。

 クレピネビッチは、地上戦力による機雷敷設や対潜魚雷の投射も提唱しているが、これは海上戦力が実施してきた役割を陸上戦力が補完するユニークなものである。陸上自衛隊は地対艦ミサイル、多連装ロケットシステム、ヘリコプターなどを保有しており、海上自衛隊の統制下でこれらを用いた機雷敷設や対潜魚雷の投射を行うことについて検討する価値はある。

 なお、クレピネビッチは地上戦力が地対地ミサイルによる敵地攻撃能力を持つことを提唱している。陸上自衛隊がこの種のミサイルを保有することは技術的には可能であろうが政治的には敏感な問題であり、慎重な検討が求められる。

陸上自衛隊の課題 
島嶼防衛と海上・航空優勢拒否との両立

 陸上自衛隊が南西諸島周辺での海上・航空優勢拒否において果たす役割は大きい。しかし南西諸島に所在する陸上自衛隊にとって島嶼防衛、つまり日本の領土を守り、そこに住む国民を守ることは至高の任務である。したがって、陸上自衛隊は島嶼防衛と海上・航空優勢拒否を両立させる必要があるのだ。これはクレピネビッチが言及していない点である。

 沖縄県内には49の有人島が存在するが、これだけ数の有人島を守るためには更なる情報収集能力、機動展開力、長射程火力、兵站支援能力などが不可欠である。例えば機動展開力は、平素から陸上自衛隊が配置されていない島嶼に部隊を緊急輸送し、その領土と住民を守る上で極めて重要である。

 同時に、地対空ミサイルや地対艦ミサイルを多数の島嶼に緊急輸送して配置することは、中国軍の海上・航空優勢獲得を拒否する上で有効である。しかし、南西諸島周辺で海上・航空優勢を巡る攻防が行われている中では海上・航空自衛隊による輸送支援に期待できない場合もあろう。


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