中国がインテリジェンス活動に関するリスク計算を変更した理由として、以下の数点の要因の組み合わせが考えられる。一つ目が、必要性の増大だ。急速に拡大する海外権益を保護するために、インテリジェンス能力の向上は急務である。二点目に、官僚組織の力関係の変化がある。
1980年代、インテリジェンスを司る国家安全部と軍内の関連部門は外交政策において大きな影響力を持っておらず、「中央外事工作領導小組」にも参加していなかった。しかし、近年、中国の対外政策の決定プロセスは多元化し、外交部の影響力は相対的に低下し、国家安全部の影響力は増大している。
三点目に、過去に海外活動のリスクを過大評価していたとの中国の判断もあろう。それと関連して、四点目に、中国の経済的重要性の急増もあり、中国の脆弱性は低下したと判断されている。中国の指導者は、海外でのインテリジェンス活動が中国の平和発展に影響を与えるとはもはや考えていないように見受けられる、と指摘しています。
出典:Peter Mattis,‘The New Normal: China's Risky Intelligence Operations’(National Interest, July 6, 2015)
http://nationalinterest.org/feature/the-new-normal-chinas-risky-intelligence-operations-13260
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中国のいわゆるスパイ活動は、主に中国系の人脈を通して行われて来ました(例えばD.ワイズ『中国スパイ秘録:米中情報戦の真実』参照)。旧ソ連と比べてもかなり立ち遅れていました。最近のサイバー空間での活動の活発化は、その遅れを、ハイテクを駆使した手法により挽回しようとするものなのでしょう。実際に諜報要員を海外に展開するよりは手間も省けますし、一見、安全です。
インテリジェンス活動の活発化は、中国の対外姿勢に関する大きな質的変化の最中の動きであり、中国の対外強硬姿勢の顕在化と軌を一にしています。鄧小平の重しが取れたということであり、資金も豊かになり、国家安全部及び軍情報部門の活動はさらに活発になることを覚悟しておくべきでしょう。
しかし、中国にとり安全な職務達成手法であったはずのサイバー攻撃が、目下、米国をはじめ世界の強い反応を引き起こしています。米側は、そのために必要な措置は取り始めているはずであり、ここでも中国は「作用・反作用の連鎖」に入り込んだと言えるでしょう。
中国の諜報分野での活動の度合いが、中国の自国に対する敵対度を測るメルクマールとなります。これは、まさに軍事安全保障の世界の話です。つまり、実際の行動がすべてであり、世界はそれにより相手の意図を判断します。外交と違い「玉虫色の解決」はありません。南シナ海や東シナ海の問題と同様に、習近平の新外交路線は、厳しい試練に直面しています。9月の訪米までにどう調整するのでしょうか。それによって中国の対外姿勢の見定めがつくと思われます。
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