2024年11月22日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年9月23日

 ちなみに、基本給は年1万8000ドルで、稼いだ手数料に応じた歩合給がつくという条件だった。与えられたノルマを見事に達成するまでの悪戦苦闘ぶりは、実体験に基づくものだけに面白い。結局は、ノルマ達成どころか、支店のトップセールスになる。

 第2章では、1990年代後半のインターネットの爆発的な普及期に、友人とともに転換社債に関する情報を提供するウエブサイトを立ち上げた苦労話を披露する。とにかく、知名度を上げるためにテレビ局のキャスターに奥の手をつかって接近したり、新聞記者にくまなく連絡したりと、ここでも向こう見ずな快進撃をみせる。そして、ウォール街の名門モルガン・スタンレーが、筆者マクドナルドが立ち上げた会社を買収したのを機に、モルガン・スタンレーの一員となりついにウォール街に足を踏み入れる。

 そして、2004年、旧友に誘われリーマン・ブラザーズに入社した。ここから、本書はいよいよ本題に入るのだが、内幕暴露として読むと、語りはやや精彩を欠いていく。ただ、腕に自信を持つアナリストが緻密な分析力を駆使し、デルタ航空や電力会社カルパインの経営破綻を事前に予想し、株式を空売りしたり、破綻直後に値段が暴落した債券を逆に安値で買い集めたりして、巨額の利益を上げる場面などは、手に汗握る迫力がある。投資銀行のトレーダーたちが日々、どのような戦いを続けているのかがよく分かる。

筆者が住宅バブル崩壊を察知したきっかけ

 住宅バブルが続き、住宅ローン会社がどんどん融資を膨らませている現状を疑問に思った筆者マクドナルドが独自調査に乗り出し、住宅金融会社ニューセンチュリーの本社を視察に行った際に目にした、従業員が使う駐車場の描写も印象的だ。

 For a split second I couldn’t work out whether this was a mortgage brokerage or a Ferrari dealership. But I definitely never before saw one single spot on God’s green earth with that many top-of-the-line automobiles parked shoulder to shoulder. Alongside the Ferraris, we saw two low-slung 160-mph Lotus sports cars from England. We saw brand-new Jaguars and the most opulent BMWs. Mercedeses were two for a penny. We even saw a dark blue Bentley. (p181)

 「住宅ローン会社なのかフェラーリの代理店なのか一瞬分からなかった。しかし、こんなに沢山の最高グレードの車が肩を並べて駐車しているのを、この地球上で過去にみたことはなかった。フェラーリの隣に、イギリス製の時速160マイルの車高の低いロータスのスポーツカーが2台とめてあった。最新型のジャガーと豪華なBMWがいくつも並んでいた。メルセデスなんてたいしたことはなかった。ダークブルーのベントレーさえあった」

 個人に住宅ローンを貸し付けるだけの会社の従業員たちが、これほどの高級車を乗り回せるのは何かおかしい。この光景をみた筆者は、住宅ローン市場でとんでもないことが起きており、いずれバブルが破裂し大変なことが起きることを確信する。住宅ローン会社は、借り手の返済能力にはお構いなしに、とにかく住宅ローンを貸し付け、そのローン債権を次から次に、リーマンのような投資銀行に転売。投資銀行は買い集めた住宅ローン債権を証券化して、世界中の機関投資家に売りつける。だれも、もともとの住宅ローンの借り手の存在など気にもしていないのだ。みずから現場をみてまわることで、筆者はサブプライムローン問題の本質を見抜いたのだ。リーマンで筆者は住宅ローン会社を詳しく調べ上げ、株式で空売りをしかけていく。

 現場の社員はこれほど住宅ローン市場などのリスクを察知していたのに、なぜ経営トップたちは気づいてくれなかったのか。こうした思いをぶつけたのが本書だ。筆者はリーマンの元同僚たちのマーケットと戦う姿を、敬愛の念をこめ描いていく。半面、ファルド元CEOら経営陣の素顔が本書からはあまりみえない。


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