■今回の一冊■
A COLOSSAL FAILURE OF COMMON SENSE 筆者Lawrence G. McDonald with Patrick Robinson, 出版社Crown Business, $27.00
本書はアメリカで7月に出版したばかりだが、日本で早くも先週、『金融大狂乱 リーマン・ブラザーズはなぜ暴走したのか』とのタイトルで翻訳本が発売になった。世界の金融システムを崩壊の瀬戸際に追いつめたリーマン・ブラザーズの破綻からちょうど1年がたったということもあり、リーマンの元債券トレーダーだった筆者のローレンス・マクドナルドは日本の大手新聞各紙が掲載した特集記事にも相次ぎ登場した。
元社員が執筆したノンフィクションだけに、リーマン破綻の内幕が赤裸々に描いてあると期待して読むと、しかし、読者の多くは拍子抜けするかもしれない。本書を執筆するために社内の関係者に取材したとはいえ、本書は基本的に一社員の限られた社内での見聞に基いており、元CEOのリチャード・ファルドら経営陣レベルで実際にどのようなことが起きていたのかはほとんど明らかにされない。
経営陣暴走の真相は見えてこない
これまで報道されている通り、リスクを考慮せずに不動産投資に走り負債を膨らませすぎたのがリーマンの命取りになったという通例の理解を超える新事実が出てくるわけでもない。リーマン破綻の3カ月前に、主要部門のトップがクーデターを起こしてファルドCEOに直談判し、グレゴリー社長を更迭させた経緯には多少、生々しさがある。とはいえ、膨張しきったリーマンのバランスシートを整理するには時すでに遅く、クーデターを主謀した有志たちでも会社を建て直すことはできなかった、というのだから、「リーマンはなぜ暴走したのか」という問いの答えはなかなか出てこない。筆者のマクドナルドも本書の最後の部分で、まさに次のように記すくらいだ。
Even now I cannot quite understand what went wrong. How could it have gone wrong? (p338)
「今もって何がまずかったのかよく理解できない。どうして、あんなことになってしまったのだろうか?」
現場の社員は住宅バブルが破綻するリスクなどを認識し、社内でも警鐘を鳴らしたのに経営陣は聞き入れなかった。ファルドCEOはトレーディングルームに1度も足を運ばず、現場の声に耳を傾ける姿勢を持っていなかった。ファルドは複雑な金融商品や市場の状況を理解していなかった、というのが本書の主張だ。例えば、現場から遊離し象牙の塔に閉じこもるファルドCEOの様子を次のように描く。