2024年11月22日(金)

【特別対談】日本のソフトパワーを考える(全4回)

2009年10月7日

バラカン 演奏者は年配の方なんですか?

青木 そうです。全体が同好会のような感じといえばいいかなあ。パリ開放のときに米軍のジャズバンドがスイングジャズを街頭で演奏すると、解放に沸く街で市民が熱狂するというような。たとえばトミー・ドーシー、ベニー・グッドマンなどのビッグバンド・ジャズ。アメリカジャズ文化が一種の平和のシンボルとなっていた。アメリカのまさに「ソフトパワー」の影響ですよ。21世紀になっても残っている。アメリカについては大きな批判もあるけど、大学も含めたその文化にはみな惹かれている。

 クリントン国務長官が先般の来日時に、明治神宮を参詣し、お神酒を飲んだ。「日本文化への尊敬」と言っていました。21世紀は文化が中心となる時代。グローバル化の中に「文化」がある。それを強く認識しなければならない。

バラカン あの時代、アメリカは自由のシンボルですからね。当時、例えば「カサブランカ」みたいな映画なんかを見てもそう。

青木 今では一種のノスタルジーなんだけど、当時はそうでした。

バラカン そうなんですよね。

青木 アメリカは、おおむねいいイメージで日本を占領したと思うんです。「日本文化論」で、ルース・ベネディクトの『菊と刀』(講談社学術文庫) (4)という本があるでしょう。これは、戦時中、アメリカ軍が日本をいかに占領するかのマニュアルをつくるため、アメリカの人類学者などを動員してワシントンD.C.で始められた研究会の報告書が元になっているんです。そうした当時の戦略プロジェクトで研究をしたベネディクトが、その成果を自分の本としてまとめたのが『菊と刀』なんです。

バラカン でも、当時のアメリカは、日本がどこまでコロリと変わるかということは見込んでいましたかね?

ルース・ベネディクトによる著書 『菊と刀』

青木 いや、それは見込んでなかったと思いますよ。当時の沖縄では、激しい抵抗戦があったわけですから。

バラカン さかのぼってみると、戦前・戦後で日本文化の様相が変わったのは、やはり1945年に敗戦したことが出発点のような気がしてしょうがないんです。

青木 文化はだいぶ変わりましたね。ただ、戦前からもちろんアメリカのダンスミュージックは入ってきますし、日本人のプレイヤーがジャズもやっていました。

 そういう意味では、戦争の一時期、1930年代後半から45年までが「鬼畜米英」と言ったりして反発を強めていた時期ですが、その後は、戦前の状態にまたつながったような気がします。明治以降、西欧の悪口を言っても西欧崇拝がある、という二重構造があって、このことは大きいですね。逆に、アジア、とくに現代アジアに対して日本人はほとんど関心がない。中国の古典とか、朝鮮の焼き物、陶器、古典文化・伝統文化に対してはみんな関心を持っていますけど、現代の文化に対してはほとんど関心がない。それでも、21世紀になってだんだん変わってきました。

(4) 『菊と刀』(原題“The Chrysanthemum and the Sword”):
アメリカの女性文化人類学者ルース・ベネディクト(1887-1948)が日本人の特性や文化について論じた著作。1946年出版。第二次世界大戦時、アメリカは対戦国である日本を知るために、自国の文化人類学者に日本研究を命じた。本書は、そのうちの一人であったベネディクトが、成果を出版したものである。ただし、ベネディクト自身は来日していない。

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