2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2015年9月22日

習近平の意図か、海軍の単独行動か?

 こうした挑発的な行動に込められた意図に関しては様々な見方ができる。まず、訪米前に安全保障問題での強硬姿勢を暗示して米国を牽制しようとする習主席自身の意図の反映との見方ができる。

 他方、もし今回の中国艦隊の行動が軍の独断で行われたのであれば、軍の対米強硬姿勢を習主席に見せつけ、安全保障分野での対米譲歩を許さないとする政治的圧力であったとも受け取れる。また、中国軍が米本土近海でも行動できることを米国に見せつけ、中国近海における米軍の行動を控えるよう促す意図があったとの見方もできる。さらに見方を変えれば、9月3日の軍事パレードでの海軍の露出度が小さいため、政治指導部、軍中央、あるいは海軍が海軍だけのアピールの場を設けたとも想像できる。

 こうした外交的、内政的、組織的意図とは別に、今回の中国艦隊の行動は北極海への進出に向けた中国の動きの一環との見方もできる。近年、地球温暖化によって北極海の結氷海面は徐々に減少し、それに比例して中国にとっての北極海の経済的価値は徐々に高まっている。

 第一の価値は北極海航路である。北極海航路は欧州と中国との間をスエズ運河経由の南回り航路に比べて短い距離で結ぶため、運航コストの削減が期待できる。また、南回り航路が政情不安、テロ、海賊、領土を巡る紛争などの危険を孕んだ海域を通航する一方、北極海航路は比較的安全性が高い。そして、第二の価値は埋蔵されている資源である。米国地質学研究所は、地球上の未発見資源の22%の石油と天然ガスが北極に眠るとの調査報告を2008年にまとめている。

 中国は1990年代以降に北極での科学的調査を本格化させ、2004年には北極研究所をノルウェーのスバールバル諸島に設置した。2012年に中国は北極評議会の常任オブザーバー資格を取得し、同年には中国の砕氷調査船が北極海航路を航行してアイスランドとの間を往復した。他方、中東からの原油輸入を含む貿易面で、中国にとって南回り航路が最も重要であることに変わりはない。資源開発に関しても、中国海洋石油総公司が2013年にアイスランドの企業と石油・天然ガス開発の共同企業体を設立したが、開発の成否は不透明である。

 このように、北極海での中国の経済権益は今のところ限定的であり中長期的にも不透明だ。しかし、米国やロシアなどの大国が北極海に目を向ける中、大国を自認する中国が北極海への関与を大国の証と考えても不思議ではない。したがって、中国艦隊が北極海につながるベーリング海に入った意味は、中国が軍事的に北極海に関与する序曲との見方もできる。


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