もし国際間の交流が経済交流だけだったら、その関係は硬直したものになるでしょう。しかし、文化交流によって、その硬直が解れる場合があります。そうした柔軟な“文化外交”を展開するためには、日本人自身が自国文化や異文化の理解に前向きになり、企業や個人が想像力・創造力を発揮できる土壌を耕して、トータルの“ソフトパワー”を充填してゆくことが必要です。
クリエイティビティを育む土壌をつくろう
青木 バブルが崩壊した90年代以降は、いわば経済の停滞期です。でも、その時期に日本のアニメをはじめ、現代日本文化が海外に展開したんですよ。最近の経済不況の中でも、文化関係は任天堂をはじめ大きな利益を上げています。世界の日本文化の支持も増えています。
問題はいま日本社会全体に、何か新しいものをつくり出していこうという意欲が、失われているように見える。これはバラカンさんがしておられるように、外からどんどん刺激を与えていただかないと駄目です。そういう点では、文化や芸術のモデルというのは、やはりクリエイティビティだと思う。そのモデルをよく認識して新しいものを創造するという社会の力をもっと養わなくてはなりません。創造力と想像力を育てるのが最大の課題だと思います。
バラカン そうね。個人主義社会の中でだったら、誰でもクリエイティビティを発揮しやすいけれど、日本のような、ちょっと悪く言えば「出る杭社会」では、ドロップアウトしないことには、自由にものをつくることはなかなか難しいかもしれない。
青木 確かに。だからアニメとかマンガの世界は、みんな小さな集団でやっている。
日本の家電製品も会社の組織が小さいときは、トランジスタラジオをつくったりして世界を驚かし、一躍発展の機をつかんだ。でも、それが巨大化し、平均化して鈍化してしまうと、創造力が失われてしまう。残念ながら、今われわれが置かれているのはそういう状況です。クリエイティブな力をどうやってつけるのか、その土台をどうつくるかというのが一番大きな問題でしょう。
バラカン アメリカの言い方で、「Thinking outside the box」と言うんですよね。箱の外で物事を考える。ソニーの創業者・盛田昭夫さんについて面白いエピソードがある。小さなトランジスタラジオをつくったときに、それをシャツのポケットに入るサイズにしたかった。でも、そこまで小さくできなかったから、盛田さんは何て言ったと思います?「だったらシャツのポケットを大きくしろ」と。それって最高じゃないですか! 企業人はこの発想じゃないと駄目だよ。
―― そういう発想ができるような土台というものが教育、その他のなかでできていないんですね。
青木 むしろ日本は、芸術・文化のモデルをいま手本にすべきではないと思います。アニメや漫画だけではなく、回転寿司やカラオケでもそうだけれども、おもしろい工夫を思いついて、それが全世界で受け入れられているという現実もある。そういう発想をして具体化するのは、小さな芸術集団のようなところだったりする。だから、独創力をもつアーティストたちをもっと尊重する必要があります。同類的な思考になると、創造性が発揮できない仕組みになってしまうから。