2024年11月27日(水)

【特別対談】日本のソフトパワーを考える(全4回)

2009年10月10日

青木 僕は、まず文化の価値を感じることだと思う。文化に触れ、そのいろいろな表現から“歓喜”する、感動を得るという経験をすることから始めるのが一番大切じゃないかと。

 「文化教育」といっても、単にこういうものがありますと教えているだけではつまらないから、やはり生徒みんなが、「これは素晴らしい」と思うような形でプレゼンテーションしなくちゃいけない。その面白いと思わせる仕掛けが、どうも日本人は弱い感じがする。

バラカン そう。日本に限った問題じゃないですけど、テスト中心になっちゃうからね。

青木 単に「これがありますよ」と押し付けるのではなく、感性を磨くような形で伝授することをもっと考えるべきですね。

バラカン 特に子ども相手のときは、紹介する人間自身が興味を持たなければ伝わらないね。熱意を持っていると、それが自然と伝わるから、何も努力しなくても相手が面白がるんですよね。僕なんか、たかだかポピュラー音楽をラジオで紹介しているだけだけど、自分の好きなものを自分で選んで紹介するから、不思議とその熱意がみんな伝わるんですよ。すごく簡単なことです。

青木 教育の場でもそうですし、日本も世界との関係においてはやはり日本文化だけでなく異文化をよく勉強して、そのうえで世界とどういう関係を持つかということを考えなくてはいけない。経済的な交流だけででは、やはり国際関係が硬直する。特にアジア諸国やロシアとか、日本の周囲には複雑な異文化をもつ国や地域がいっぱいありますからね。文化をこちらがきちんと理解しているということを示すことによって、初めてうまく経済進出とか経済交流もできる面も大きいと思います。まあ、こうしたこと全体が日本の「ソフトパワー」の強化につながるわけですね。

―― 文化を自分たちの財産として大切にし、それを外に向けてうまく発信していくためには、まず日本人自身が文化に触れて学ぶことが大切ですね。

 今日はいろいろと文化に関するお話を伺いました。どうもありがとうございました。

バラカ 話は尽きないですが、こういう話題はいつまでも議論したいですね。

青木 いつもテレビなどを見て、「日本文化に通じたすごい人がいるぞ」と思っていたんだけども、今日初めてご本人と話せて本当に楽しかったです。

青木・バラカン ありがとうございました。 

 

青木 保(あおき・たもつ)
青山学院大学大学院特任教授。文化人類学者。
前文化庁長官、大阪大学名誉教授、文化人類学者。
1938年生まれ。1965年以来、東南アジアをはじめアジア各地、西欧などで文化人類学的フィールドワークに従事。1970年代にはバンコクの仏教寺院 で僧修行をする。宗教からジャズまで、国、地域間における「文化」の役割や文化外交、「ソフトパワー」の役割などに強い関心をもっている。大阪大学、東京 大学、政策研究大学院大学などで教授をつとめた後、2007年4月から2009年7月まで、 18代目の文化庁長官に在任。また、ハーバード大学、フランス国立パリ社会科学高等研究所などで客員研究員や教授をつとめた。2000年、紫綬褒章受章。
主な著書に、『儀礼の象徴性』(岩波書店)、『「日本文化論」の変容』(吉野作造賞、中公文庫)、『逆光のオリエンタリズム』(岩波書店)、『アジア・ジレンマ』(中央公論新社)、『憩いのロビーで 旅のやすらぎ、ホテルとの出会い』(日本経済新聞社)、『異文化理解』『多文化世界』(いずれも岩波新書)など。

ピーター・バラカン(Barakan, Peter)
ブロードキャスター、音楽評論家。
1951年ロンドン生まれ。1974年、レコードショップで働いていたとき、日本の音楽出版社の求人に応じて来日。6年後、YMOのマネジメント事務所に 転職し、YMOの海外コーディネイションや楽曲の英補作詞を担当した。その後は独立し、テレビやラジオの音楽番組パーソナリティを数多くつとめ、その選曲 センスは音楽ファンから高い評価を受けている。
また、テレビ番組の司会も務め、「CBSドキュメント」(TBSテレビ)で海外の良質なドキュメンタリーを紹介し、「Begin Japanology」(NHK)では、日本の伝統文化やその継承者を紹介し、等身大の日本文化への理解を促している。
主な著書に、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテス・パブリッシング)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社プラスアルファ文庫)など。




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