2024年11月27日(水)

【特別対談】日本のソフトパワーを考える(全4回)

2009年10月10日

バラカン 現代日本の文化を特徴付けている漫画だって、ほとんどの場合は、最初はその存在が誰にも気付かれない。描き手が好き勝手にやっているんです。それが大きな漫画フェアみたいなものからどんどん広がっていって、世界的に知られるまでになる。

青木 すごい人口ですよね。それから、いまでは『源氏物語』を漫画にしたり、『資本論』を漫画にしたり、古典などを理解するための一つのツールになっている。

バラカン 把握しにくいことを取りあえず漫画を読むことによって頭にいったん入れておくというのは、とても有効な手段だと思いますけどね。

青木 今まで漫画というのは、一般にはどうしても低級な娯楽作品、子供のためのものと捉えられてきていた。でもいまやきちんと文化として位置付けて評価しなければならない。アートには娯楽から高級な芸術までも含まれる。

バラカン 僕は日本に来たばかりの頃、相撲に興味を持ってテレビで相撲を見始めたんですけど、技の名前も分からないし、しきたりのことなんかも分からなかった。そうしたら、会社の同僚が、ちばてつやの『のたり松太郎』 という相撲取りの漫画を薦めてくれたんです。読みだしたらもう面白くて、面白くて。ちばさんの絵も緻密だし、せりふも面白いし。あとは秋山ジョージさんの『浮浪雲』も好きだったなあ。『浮浪雲』を読んでいるうちに、江戸文化の面白さが分かってきた。

 どちらも教育的なものではないのに、自然と教育されている。そういう効果があるわけですね。

青木 そういう意味では、漫画は広く受け入れられる21世紀の文化であると同時に、基本的な知識獲得の手段だと思うんです。漫画を一つの表現の手段として、知識獲得の手段として認めて、文化としてきちんと位置をつける時代がきたと思います。これは大げさに言うと、日本が先鞭をつけた全世界的な欲求なんです。

 日本は、浮世絵もそうですが、育てる文化的な伝統と土壌がある。芸術(ハイカルチャー)としての市民権を得てないとしても、サポーターはものすごく多いわけです。ドラえもんからポケモンから何から多彩な表現が生まれてくる。このバラエティーの広さというものは、アメリカやフランスのコミックにはないんですからね。

大切なのは、文化の価値を感じること

―― 日本人が自国の文化をあまり知らないのが現状だとしたら、もっと自国の文化を知った上で外国の人たちと交流をしていくということが、これからの時代に大事ですね。文化的土壌を大切にしていくことの必要性ついて、お二人にお伺いします。

バラカン そのためにどうしていけばいいかを具体的に言うと、親が子に伝える。学校の中でも伝える。マスメディアが関心を持って、分かりやすく伝える。この三つが必要だと思います。つまり、教育が鍵だと思う。いま漫画やアニメをきっかけに日本がかっこいいと、あこがれ始めている諸外国の人たちにとっても、日本文化全般に興味を持つきっかけになるかもしれません。

 そういう人たちが伝統工芸に触れ、「これは素晴らしい。何? 後継者がいない? では、私がなってやろうじゃないか」という人も既に出てきていますし。これからますます多分僕は増えると思います。でも、日本人の皆さんが、自国の伝統工芸が外国人の手によって受け継がれていくことがいいのかどうかを考えたほうがいいと思う。経済成長ばかりを追いかけて突き進むよりも、日本文化を後継する職人になることのほうが、立派な決断だと思います。


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