取引現場に身を置いて、語ろう。
トレイダーたちは、石油経済の専門誌に出ているマーケット動向の解説記事に対して、アンビバレントな態度をとっているようである。なぜなら、市場動向を寄稿するアナリストたちに情報を提供しているのは、ほかならぬトレイダーたちなのだから。
彼らはこの実業世界のプロとして、業界内での苛烈な競争を生き残り、それぞれの属する組織の利益のために、日々、電話で、メールで、あるいは公設取引市場の電子画面で、世界中のトレイダー仲間たちとおしゃべりを続けている。
トレーダーたちの思考回路
「本当のところは、俺達だけが知っている。アナリストは縁故を頼りに聞きまわって、今、マーケットで何が起こっているのか、推測してるだけだ。わはは、つまらん連中だ」
石油トレイダーたちには強い身内意識があるのだ。
一方で彼らは、相場のトレンドが、いつか、突然、反転し、何カ月もかかって営々と積み上げてきた取引益が、一瞬で飛んでしまう日が来ることを怖れているのも確かなのだ。実際、そういう「日」は過去に何回も訪れ、運悪く大損した仲間が消えていった。
将来の「あるべき国際石油価格」レベルは、どのあたりなのか?
このレベルについて、石油生産者や最終消費者の間で共通の見通しが形成されているのなら、トレイディングは安心だ。トレイダーたちは、いずれの時点でか、その価格レベルに収束する未来を見据えながら、日々の価格変動幅のなかで鞘取りをして、快適な日常を過ごすことができる。だから、手がすいたときに石油・エネルギー経済の専門誌を覗いておきたくもなる……。
このように、国際石油市場では、売り手と買い手、生産者や最終需要家は国際石油価格に係わる幾多の情報に晒されながら、毎日、価格を形成してゆく。
そこで、石油価格の形成に、短期的にあるいは中長期的に影響を及ぼしている様々な情報について、情報の内容や質の違いに注目しながら、構造的な整理をしてみよう。