2024年11月22日(金)

サムライ弁護士の一刀両断

2015年11月25日

 NLDが過半数を獲得し、現政権も平和的な政権交代を示唆しており、政権交代は必至と考えられる。後に述べるとおり、アウン・サン・スー・チー氏自身は憲法上の制限によって大統領にはなれないが、それでも同氏の影響下にある人物が大統領になるはずである。ミャンマー人の友人や同僚に話を聞いてみたが、多くが、政権交代後の生活の改善に大きな期待を抱いているようである。外国人に聞いてみても、みな好意的に捉えているが、外国人の方が冷静に状況を捉えているようだ。

ヤンゴン市街(iStock)

 ミャンマー人と話をすると、時々、民主的な政党が政権をとるから、生活や経済が良くなると考えているように見える。しかし、実際に彼らの生活が改善するかどうかは、政権交代後の政府の具体的な政策によるわけであり、民主化と生活の向上には論理的繋がりがあるわけではない。それでも、長期にわたって存在しなかった民主的政権がこの国に誕生するということは、今後の発展を予感させる大きな一歩といえるだろう。しかし、今回の総選挙とそれによる政権交代だけで、ミャンマーが完全に民主化されたと考えるのは早計である。その鍵は、2008年憲法が握っている。

軍を優遇する2008年憲法

 2008年憲法には、国政への軍の介入を認める様々な規定が存在している。代表的なものを幾つか挙げてみたい。まず第一に、軍が国民の政治的リーダーシップを司る役割に参加できるようにすることが、連邦制度の目的の一つであると明記されている。第二に、国会議員には、軍の最高司令官が指名した者が一定数含まれることが明記されている。ミャンマーの国会は、地域・州を代表する上院(Amyotha Hluttaw)224名と街(Township)と人口に基づき選出される下院(Pyithu Hluttaw)440名で構成されている。

 このうち、それぞれの4分の1に当たる上院56名及び下院110名は、軍の最高司令官による指名により選出される。したがって、今回の選挙において議席が争われたのも、この166名を除く498名である(正確には7選挙区での選挙が見送られたため491名)。後述するとおり、大統領の指名は、全議員の過半数によってなされる。軍による基盤を持たない政党は、選挙により66%を超える議員を確保しない限り、全議員の過半数を獲得することはできない。

 第三に、軍の最高司令官には、ミャンマーに国家レベルでの危機や混乱が生じたような場合、国の統治権を引き継ぎ、これを行使できる権利が与えられている。

大統領選出

 大統領及び副大統領は、大統領選挙人団により選任される。大統領選挙人団は、両院の議員によって構成されるが、これが3つのグループに分けられる。1つ目は上院議員のうち選挙によって選出された者、2つ目は下院議員のうち選挙によって選出された者、そして3つ目は軍の最高司令官によって選出された者である。各グループはそれぞれ1人ずつの副大統領を選任し、さらに全議員が当該3人の副大統領のいずれかに投票する形で、1人の大統領を選任する。


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