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2015年11月28日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

IT立国目指す北朝鮮

 日本は拉致が壁になって動きが取れない状況だが、米国はしたたかな動きをしている。一方で経済制裁を課しながら、ピョンヤン科学技術大学を北朝鮮と協力して積極的に支援している。この大学には北朝鮮の各地からから集められたエリート約300人の男子学生が、インターネットなどの情報工学、バイオをはじめとした分子生物学の最先端分野について、米国から送り込まれたノーベル賞を受賞した優秀な教授陣から学んでいる。授業は全て英語で、この大学の生徒は特例的にインターネットが無制限で利用できるなど特別待遇になっている。

 米国の検索大手のグーグルやフェイスブックの首脳がたびたび同大学を訪問しており、米国側も北朝鮮の優秀な頭脳を安く使いたいという狙いがあるようだ。IT立国を目指す北朝鮮としては、ITやバイオに関する優秀な技術者を養成することは国威発揚になるとみている。

 米国は北朝鮮を敵視しながらも、先端技術の人材育成の面で北朝鮮に関与している。一方、日本は拉致問題が障害となって、関係を遮断してしまっている。これは戦略的に間違っている。

 北朝鮮はアニメにも力を入れている。下請けなので表には出ていないが、「北朝鮮で制作されたアニメの質は高い」という評判を欧米からも得ているようだ。優秀な人材を国家が惜しみなく特定分野に集中させることができるからだ。つまり、拉致問題や核・ミサイルという側面ではない、「別の北朝鮮」もあるわけだ。日本が拉致問題を入り口にしてしまって、北朝鮮の多様な側面を一切見ないようにしているのは、国益という観点から見ても間違っている。

豊富な地下資源

 北朝鮮は人口2500万人で市場としては小さいが、レアメタルやウランなど地下資源が豊富にある。そのほとんどが未開拓で眠っている。日本の財閥が植民地時代に地下資源の埋蔵について調査を行ったが、そのほかはどこもできてない。北朝鮮は調査する能力がなく、米国も入ることができない。このため、北朝鮮の地下資源を調査した日本が持っている埋蔵データはそのまま有効だ。

 北朝鮮の事実上ナンバーツーだったチャンソンテク国防委員会副委員長が2013年12月に処刑されたのは、関係があった中国に対して輸出を禁じていた質のよい石炭を輸出させたことが金正恩第一書記を激怒させた原因のひとつだと言われている。北朝鮮は最後の拠り所は豊富な地下資源だと考えている。それだけに、貴重な地下資源を許可なく中国に輸出したことは許せなかったのではないか。

 筆者は小倉教授から北朝鮮がIT立国を目指し、アニメの分野で重要な人材リソースになっているのを聞いて驚いた。北朝鮮は西側に対して安全保障面では核武装、経済外交面ではレアメタルやウランなどの地下資源、さらにはITを扱える若い頭脳など、交渉を有利に導けるいくつかの「カード」を保有している。その一方で、外貨資金が不足、慢性的な食糧不足にも悩まされている。北朝鮮のほしがっているものを緻密に分析した上で、「日本モデル」で提案していけば、一筋の光明が見いだせるかもしれない。来年こそは北朝鮮問題解決に向けて、前向きな展開を期待したい。

  
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