熟成段階へと進んだ欧米金融市場
2つ目の欧米との違いは、金融市場の成熟度の違いだ。資金ニーズを貨幣や有価証券で橋渡しする事を金融市場の生業とするならば、欧米市場は”完熟”から今後”熟成”ステージへ、日本は”未熟”と”完熟”の間にある。赤身肉の話をしている訳ではないので、具体例を挙げる必要があるだろう。細かい突っ込みは控えて欲しいが、図3の比較はどうだろうか。(英国はヨーロッパ地域単位の資本市場へと大きく移行したため、ここでは日米比較にする)
米国では大型株だけでなく、小型株やベンチャー投資でもしっかりと資金が潤沢だ。非上場ベンチャー企業で市場価値が10億米ドル(約1200億円)を上回るものは”ユニコーン”企業と呼ばれているが、この数は今、過去最高の145社に達している。近年ではベンチャー投資に(資本家と云われる特殊層だけでなく)機関投資家の参加率が高まっている。株式公開しなくても資金調達ができる仕組みができあがったのだ。
一方日本におけるベンチャー企業投資は(統計手法によって20%前後誤差はあるが)年間約1000億円。毎年1兆円以上のODA支出をし、20兆円を超すM&A(2015年)が行われている国としては極めて規模が小さいが、FinTechでベンチャー投資市場が突然充分な規模に変わる訳でもない。終身雇用、安定給与、そして大企業趣向の国民性や文化にも深く関わっているので、時間を掛けて成長を促す根気が必要だ。
金融市場が“完熟”していない日本においては、ベンチャー企業が中心になって事が進む欧米とは異なり、伝統的金融機関や既存のIT企業の出方が鍵となる。前述した金融庁が検討しているとされる銀行業務範囲規制の緩和も、最近頻繁に発表される大手金融機関や大手企業とベンチャーFinTech企業の提携・出資も、日本独自のFinTechへと繋がる素晴らしい取り組みだ。
FinTechは手段・機能・ツールに過ぎず、目的はより良い金融サービスの提供だ。FinTechという言葉がBuzzワード(流行語)となり、言葉に踊らされる心配があったが、しっかり本質を理解した実業家・起業家・大手企業経営陣・監督官庁の動きが多く頼もしい。
おことわり:本コラムの内容は全て執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式的な見解を示すものではありません。
[1] 2014年、世界148カ国・約15万人を対象に行われたMcGraw Hill Financial社のグローバル・フィナンシャル・リテラシー統計
[2] 関係省庁(金融庁、消費者庁、文部科学省)、有識者、金融関係団体(全国銀行協会、日本証券業協会、投資信託協会、生命保険文化センター、日本損害保険協会、日本FP協会、日本取引所グループ、運営管理機関連絡協議会)金融広報中央委員会がメンバー
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