分断されるドイツ
ドイツにおいて、いまや過去の移民と難民を加えると計1600万になり、全体の2割を占めるまでになっている。
代表のバッハーマンは、大越のインタビューに答えて、EUの状況を次のように表現する。
「EUはスープに例えられる。加盟国のアイデンティティ(自己同一性)を失ったごった煮状態である。おなかはいっぱいになるが、誰にとってもおいしいものではない」
「ペギータ」の支持者が、近所のホテルが難民を受け入れる施設となることに反対しようと、公園で親子連れに支持を訴える。
妻と子を連れた男性は、大声をあげて反論する。
「難民は被害者であり、受け入れるべきだ。そんな考えならペギータにいってしまえ!」
EUの寛容性は失われている。ドイツ国民は分断されている。
地政学者のドミニク・モイジは次のようにいう。
「メルケルは正しい。しかしリスクを負った。今後、難民をコントロールしながら受け入れていかなければならないだろう。テロと難民を意図的に結びつけるのは、ポピュリストだ」
政治学者のクラウス・レゲヴィーはいう。
「欧州は裂け目が生じている。自分の国のなかにこもろうとしている。EUの統合は危機を迎えている」
欧州の分断利用を目論むロシア
第2回は、前回のEUの分断の危機に乗じる形で、ロシアが大国を目指している様が描かれている。
ドキュメンタリーは、プーチンに近い実業家であるコンスタンチン・マロフェーエフに迫る。彼は不動産や株式などで富を築いたビジネスマンである。
ロシアによるクリミアの実行支配の作戦において、マロフェーエフが資金などの援助をしていた事実が指摘される。大越のインタビューに対して、彼は「あくまでも人道支援だ」といって譲らない。
しかし、ウクライナ政府が公開した、クリミア作戦を行ったふたりの軍人と彼の電話内容から、クリミア占領にあたって、多数の死傷者をだしたという報告に対して、彼は「祝日にすべきだな」と語っているのである。
欧州の分断の動きをプーチン政権は、EUとNATOに対抗する手段として利用しようとしている。
かつて内戦によって20万人が犠牲となった、ボスニア・ヘルツェゴビナ政府は、EUとNATOに加盟する方向性を表明しているが、プーチンはそのセルビア人の自治地域に標準を絞っている。セルビア地区の指導者は「独立を問う投票を」とあおっている。ロシアも経済支援をしている。
プーチンに近いマロフェーエフと、フランスの極右政党の国民連合の幹部と会談する場面を、カメラは追っている。国民連合に対して、マロフェーエフはおととし11億円の支援をしたといわれている。
国民連合の幹部は、米国一極支配に対抗するために「ロシアをもっと見習うべきだ」と言い切る。
今回のNHKスペシャルは、「時空を超えて、映像を織りなすテレビのドキュメンタリーの秀作である。
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