選挙結果を見ると買い付け地域の民進党支持が揺らぐことはなく、中国の目的が果たされているとは言い難い。志のある農家は政治的目的の中国市場より、消費者の眼の厳しい日本などの市場に売り込み評価されることを念願しているのが実情であるが、この政策がなくなれば、一部の恩恵を受けていた人々の不満は出てくるだろう。
もともと食品事業を営み、中国大陸で多額の利益を上げていたグループという台湾企業が、08年にテレビ局や新聞社を傘下にもつ中国時報グループを買収した。台湾で大きな影響力をもつメディアグループであるが、買収後に中国を称賛する論調が目立ちはじめ、「共産党のプロパガンダが行われている」との批判が高まった。多くの民衆が危惧していることもあり、メディアを使った情報戦もうまくいっているとは言い難いが、経済が落ち込めば、効果を発揮する可能性もある。「台湾経済が不景気に陥ったのは中台関係を悪化させた民進党のせいだ」という理屈は宣伝しやすいからだ。
(THE NEW YORK TIMES/AFLO)
日本の重要な「隣人」台湾
翻って、交渉カードをほとんどもたない蔡英文政権は前途多難である。
唯一ともいえるカードは「民意」である。台湾は中華圏で唯一選挙により直接トップが決められる国・地域である。蔡英文が中国に抗していくためには、僅差の勝利では不十分で、ダブル選での圧勝が不可欠だ。
民進党が圧勝し、これから長きにわたり台湾の政権を担っていくのが確実となれば、中国も民進党に向き合わざるを得なくなる。よって「民進党と国民党のどちらが勝つか」ではなく、「民進党がどのくらいの差をつけて国民党に勝利できるか」がポイントとなる。
日本にとって台湾は、自由と民主主義の価値観を共有する重要な「隣人」であり、民間交流も活発である。東日本大震災の後、台湾から多額の義援金と手厚いサポートがあったことは記憶に新しい。歴史認識においても日本のこれまでの歩みを客観的に評価してくれる貴重な存在である。台湾は安全保障上、敏感なエリアに位置し、その動向は日本にとって重要な関心事だ。
日本は13年に日台漁業協定を締結し「日台間のトゲ」を取り除いたが、関係強化に向けてやれることは多い。例えば、台湾はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加意志を表明しているので、日本が後ろ盾になり積極的にサポートすることは効果がある。
日台FTAの締結など、双方の優れた農産物や工業製品・部品が流通しやすくすることも、互いにメリットが大きい。また、日本企業が台湾企業と組んで中国大陸でビジネスを展開することは、日本企業が単体で大陸進出するよりリスクを軽減できる。農漁業協力、環境・生態保全の協力などの実務的関係の強化は日台双方にとってプラスとなる。東アジア安定化のためにも、日本は台湾の新政権を見守り、実務関係を強化することが必要である。
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