1月16日に台湾で行われる選挙にて、国民党から民進党への政権交代が確実視されているが、新政権の前途は多難である。「アメ」も「ムチ」ももつ中国ともたざる台湾。新政権に対して日本ができることとは─。
1月16日に台湾で、総統と立法委員を選出するダブル選挙が行われる。大統領と国会議員を一挙に選ぶ選挙で、その結果が今後の台湾のゆくえを大きく左右する。
総統選には3人立候補しているが、事実上、与党の国民党(中国国民党)・朱立倫主席と、野党である民進党(民主進歩党)・蔡英文主席の一騎打ちとなる。総統には蔡英文氏の当選が、立法院も同じく民進党の過半数の議席獲得が確実視されている。
民進党が総統職も立法院の過半数議席も獲得すれば、史上初の出来事となる。2014年11月に行われた統一地方選挙でも民進党が圧勝しており、「国民党時代の終焉」を迎えつつある。00年に民進党の陳水扁が総統選に勝利したときは、国民党が連戦と宋楚瑜に割れたことによる漁夫の利だった。今回立法院の過半数を伴う勝利になれば、インパクトがまるで異なる。
なぜここまで国民党は凋落したのか。これには「台湾アイデンティティ」が多数派になりつつあることが大きい。台湾アイデンティティは「台湾の独立」と同義ではない。台湾独立を主張するナショナリズムも増加傾向にあるものの、台湾の民衆の圧倒的多数は「現状維持」を望んでいる。
(出所)「聯合報」2014年9月15日の民意調査をもとに筆者作成
国民党は中国大陸で誕生した党であり、そのもともとのイデオロギーは中国ナショナリズムである。馬英九はそれでは勝てないと考え、08年総統選前に「国民党の台湾化」を試み、一定の評価を得て当選を果たした。
だが、政権を担わせてみると、内政は停滞したまま、中台関係の改善だけが突出した。台湾で高まりつつある台湾アイデンティティとはやはりギャップがあることに民衆は気付いた。特に12年の再選後の馬英九が習近平との中台トップ会談に向けて走り出したため、そのギャップは拡大していった。
台湾の政治大学選挙研究センターが行った14年の調査では、自らを「台湾人」と認識している民衆の割合は60%を超え、「中国人」だと認識しているという3・5%を数の上で凌駕している。「台湾人と中国人のどちらでもある」という割合も減少傾向にある。
もちろん国民党はこの長期的トレンドを知っており、中国人アイデンティティを押し付けることは少なくなったが、党の根幹にある「自らは中国人で、台湾も含めて中国である」というイデオロギーとのギャップは埋めることができない。そうした姿勢が折に触れて出て、一時は国民党の総統候補となった洪秀柱などは、「中華民国憲法は本来統一であり、(中台は)最後は統一しなければならない」と発言するなど、その傾向が非常に強かったので、総統選前から拒否反応を突き付けられ、異例の候補者差し替えに至った。
馬英九総統は台湾を強調し国民党の統一色を薄めることに注力したが、かえって台湾アイデンティティが広がり、国民党が政権を維持し続けていくうえでマイナスとなった。