2024年11月22日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2016年1月28日

 もちろん、いくら外貨準備が潤沢なサウジアラビアといえども、このような状態をいつまでも続けるわけにはいかない。しかし、通貨のドルリンクと通貨防衛を止めれば、通貨は一気に下落して大きなインフレが生じ、国民生活が脅かされることになる。OPEC諸国の中では原油安に対しての抵抗力があるとは言え、サウジアラビアも厳しい局面を迎えつつある。

通貨安競争と円の「安全資産」化が懸念

 逆オイルショックでは、世界的な通貨安競争も懸念される。原油安などが新興国を直撃する中でドル高となれば、おのずと通貨安で経済をテコ入れしようとする国が増えてもおかしくない。

 もちろん、世界経済が低調な中で自国通貨を安くして輸出を振興しても、それはゼロサム的に他国の輸出を奪うことにしかならない。このような世界経済全体が疲弊する通貨安競争は避けなければならないが、日本にはなおさら通貨安競争が起きては困る事情がある。

 それは、通貨安競争など為替市場が大きく変動する場合、いままで急激な円高が繰り返されてきたからである。世界的にリスク回避姿勢が強まれば、今回も投機資金は「安全資産」とされる円買いに向かう可能性が強い。

 すでに年初来円高の動きが強まっているが、円が「安全資産」と称されてまんざらでもない気持ちになってはならない。それは円が、市場が荒れる際に投機資金がもっとも利益を得やすい、投機に乗じられやすい通貨であることを言い換えているからに過ぎないからである。

 とりわけ、リーマンショック後円が独歩高となり、産業空洞化がさらに進んでしまった苦い経験からも、円が「安全資産」と持ち上げられれば持ち上げられるほど日本経済は深刻化する。

日本は真の勝ち組となる努力が欠かせない

 原油安・ドル高が生じる逆オイルショックの中では、日本経済は勝ち組である。オイルショック時にマイナス成長と狂乱物価が生じた逆で言えば、これから起きることは景気の一段の回復と物価の安定である。

 しかし、円高懸念はあるし、それ以外の懸念もある。オイルショックによって、かつて省エネ等の技術革新や代替エネルギー開発が促進された。それは、日本で重化学工業といった重長厚大型産業中心から省エネ・省資源型のIT産業等軽薄短小型産業への産業構造転換をも誘発したが、逆オイルショックでは省エネや代替エネルギー開発の停滞、ひいては新たな産業高度化の遅れなども懸念される。

 もちろん、懸念ばかり挙げても始まらないし、これらが杞憂ならそれに越したことはない。しかし、技術革新が停滞しないよう従来以上に努めなければ、原油安によるコスト安と円安メリットで浮かれるだけに終わりかねない。そうなれば、いずれは潰える原油高の果実を大盤振る舞いしてしまい、競争力のある産業育成を果たせなかった一部の産油国と何ら変わらない。

 逆オイルショックの影響は世界の経済、政治など多岐に及ぶ。年初来の内外市場の混乱はその影響の大きさを指し示す動きに見える。そして、大きな転換期の多くで勝者と敗者が入れ替わることは歴史が証明している。

 これは日本についても例外ではなく、新たな勝ち組である。しかし、日本が真の勝ち組であるためには、円の「安全資産」化の阻止を含めた努力も欠かせない。大きな市場変動を一過性と割り切ることなく、内外経済の大きな構造変化を見据えて官民ともに腹を据えた対応が欠かせない。

  
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