そして、耕太が深夜に突然発熱する。鈴音は水絵とともに、耕太をタクシーで病院に連れていったばかりか、保険証のないふたりのために治療費も負担する。マンションに帰ってからは、水絵の再就職活動のために耕太の世話をする。
ところが、水絵が耕太のために用意したうどんの替わりに、いっしょにカップ麺を食べた結果、耕太の体調が悪化する。
帰ってきた水絵は、鈴音を責め立てる。水絵の髪が明らかに美容院にいってきたことがわかると、鈴音は水絵に反発する。
「就職活動をしていたと思ったら美容院?」
「鈴音は2週間おきにカットにいっているからわからない。私はね、4カ月もいってなかったのよ。就職するには身だしなみも大事なのよ」
耕太の体調が悪化したこともあって、鈴音は水絵の再就職がきまるまでマンションにいることを許すのだった。
鈴音の日常に水絵が徐々に入り込んで、鈴音の生活は崩されていく。ドラマのシナリオに危うく穴をあけそうになった。さらに、スランプに陥る。
不倫相手のプロデューサーの柳井(尾美としのり)は、鈴音をカバーするために別の女性脚本家を入れる選択をする。
柳井は水絵を呼び出して、当座の生活資金だとして、カネを差し出して鈴音のマンションから出ていくように頼む。水絵のために鈴音のテンポが狂って、創作活動に支障がでているというのである。
水絵は激高して、カネを地面にたたきつける。
「調子を狂わしているのはあなたのほうでしょ。不倫をして。女の37歳って、どういう時期かわかる?」
“イヤミス”の行方はいかに
水絵役の池脇千鶴は、年齢を重ねるごとに女優として脱皮を遂げている。不動産会社の美少女のCMで知られるようになり、NHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」(2001年)の主役も演じた。
そして、日本アカデミー賞優秀女優賞を獲得した「そこのみにて光輝く」(2014年)の大城千夏役である。主役の佐藤達夫役の綾野剛とともに、海辺の街で心理劇を繰り広げる。池脇は貧しい家庭のためにからだを売り、病気で寝込んでいる父に対するすさまじい介護の様子を淡々と演じている。
読後に嫌な感じが残るミステリーを「イヤミス」と呼ぶ。原作の「はぶらし」のラストシーンは、そうとばかりはいえない。ドラマの展開はイヤミスであるが、果たしてどうか。
松本清張はかつて、森繁久弥との対談において、代表作の「砂の器」の映画(野村芳太郎監督・1974年)が小説を超えた映像であることを高く評価している。
小説とそれをもとにした映像作品は、まったく別の表現形式を持ちながら、同じテーマを読む者と観る者に伝える。
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