この地域はオーエヌ工業、トーステという有力メーカーからの受注に多くを依存していたが、更に成長するには域外からの受注が不可欠だった。しかし、結成して3~4年が経った頃、技術補完の障害になる技術レベルの差、取り組み意欲の差、技術補完のメリットを享受しにくい加工分野企業の存在などの問題に遭遇し、各社とも業績は向上しているものの、内部の綻びが目立ちはじめた。
そこで2003年にメンバーの入れ替えを行い、技術力があり技術補完に適した企業、連携や人材育成などの面で地域貢献に前向きな新規4社を含む8社に再編した。「メンバーは多い方が良いが、本当に地域をリードできるグループを作りたかった」(藪木氏)と心を鬼にして選別するのも、中核企業がしっかり育たないと地域への波及効果が薄まるからだ。「社長さん、社長さん」と経営者を等しく持ち上げがちな行政マンでは、こうした決断はできないかもしれない。
恩恵を大きく受けている企業は半数程度だが、この5年間で8社平均の売上高は7割増え28億円に、雇用も3割増えた。「津山=ステンレス」と全国的に認知度も高まり、特に関東以西からの新規受注も増えている。
リーディング産業の指定は「不公平」との意見もあるだろうが、「産業振興の意義とその実績を示していく」(藪木氏)しかない。全国から行政の視察も多いというが、さて行動に移している自治体がどれだけあるだろうか。
航空機産業に参入 TOKYOの挑戦
津山市だけではない。全国の自治体関係者から注目される中小企業支援スキームに東京都の航空機産業への参入支援事業がある。行政支援にありがちな“この指とまれ”方式は完全に排除。「本気で取り組む企業をサポートするために、説明会では、航空機産業の参入には、高レベルの品質管理能力や技術力が求められるとの厳しい現実を説明し、真に意欲のある企業を見極めていった」(東京都産業労働局経営支援課長の傳田純氏)という。その結果、500社近くがドロップアウトし、絶対に参入したいとの情熱のある企業が38社に絞り込まれ、「その中での精鋭部隊がアマテラスだ」(同)と語る。
このアマテラスとは、今年5月、都内10社の企業が自主的に結成した企業グループ。これまでは、各社が国内プライムメーカーからの下請けで、一つひとつの部品を納入していたが、グループ化することで、熱処理や加工、組立などの複数工程を組み合わせた油圧ポンプのギアなど、航空機の交換用部品の一貫生産体制を目指している。
「国内メーカーの下請けから、市場が日本の数十倍ともいわれるアメリカのメーカーと取引していきたい。実際、アメリカのベストテンに入る航空機部品メーカーから、図面を渡すので見積もりしてほしいとのオファーもある」。精密機械加工全般を手がける塩野製作所(羽村市)代表取締役でアマテラス会長の塩野博万氏は力強く語る。
受注獲得に向け、都は多彩なバックアップをしている。たとえば、航空機の部品の特殊工程を含む製造に携わるためには、約600万円もの重い負担がのしかかるNadcap(国際特殊工程認証システム)と呼ばれる認証取得が必要な上、交換部品はアメリカの航空法に合致したものでなければならない。無論、これらを理解するには語学力も必要で、中小企業にとっては、それだけで腰が引けてしまうものばかりだ。