米国は犯人側との交渉容認に
身代金交渉に応じることは、新たな人質を生むだけという国際的な論理だが、この方針を声高に主張していたオバマ米政権は昨年6月、人質政策の大転換を発表。家族が人質解放のために身代金を支払うことを初めて容認し、政府としても家族支援とともに、犯人側と接触、交渉することを承認した。
オバマ大統領は、テロリストと「交渉する」ことは「譲歩する」ことを意味しないとし、政府が犯人側と直接交渉することもあり得ることを明らかにしている。日本政府は後藤さんらの事件では、米国からISの要求に応じないよう圧力を受けた経緯がある。
しかし米国が自ら、人質政策を転換した現状の中で、日本政府が米国にことのほか配慮する必要はない。さまざまなルートを使って安田さんの救出に全力を尽くすべきだ。1999年の中央アジア・キリギスの日本人人質事件の際には、3億円の身代金を払って人質を解放させた歴史もある。
錯そうする情報
日本政府内部に「自己責任論」が根強くあることは承知しているが、安田さんのようなジャーナリストが現地に入って伝えてくる情報には価値がある。自ら進んで危険地帯に入ったという「自己責任論」を展開する前に、政府には邦人の安全を守る責任がある。
安田さんは昨年6月、取材のためトルコ南部からシリア北西部に越境し、帰国を予定していた7月中旬を過ぎても戻らず、行方不明となっていた。米紙ニューヨーク・タイムズは安田さんやスペイン人ジャーナリストらが「ヌスラ戦線」ないしは他の過激派組織に拘束、誘拐されたと伝えていた。
昨年12月にはパリに本部を置くジャーナリスト組織「国境なき記者団」は安田さんがシリアで拘束され、身代金を要求されていることをホームページで発表した。しかし後日になって情報源が信頼をおけず、誤りだったと発表を否定する騒ぎになっていた。