(ANADOLU AGENCY/GETTYIMAGES)
「ベルギーの中でも、モレンベークを含むブリュッセル都市圏、アントワープ、リエージュといった深刻な犯罪が多発する地域に銃はつきものです。アムステルダムやベルリン、パリも武器密売のハブになっています。最近では犯罪組織が拳銃だけではなく、AK-47を持つケースが増えています」。ベルギー・フランドル平和研究所のニルス・デュケット氏はこう解説する。
地下の犯罪組織とコネクションがあると銃は簡単に手に入る。最近の過激派には「半グレ」化した若者が目立ち、当たり前のように前科前歴がある。薬物や暴力犯罪で服役するケースも多く、犯罪組織との接点を持っている。犯罪ネットワークの中枢にアクセスできるようになると、AK-47やロケットランチャーなど、あらゆる武器を手に入れることができるという。
デュケット氏は続ける。「1990年代に紛争地となったバルカン半島から大量の銃が流れ込みました。欧州の違法銃は正確な数字は分かりませんが、数百万丁と言われています。欧州の多くの国では発射できなく(不可動化)した銃を合法的に買えます。問題なのは、スロバキアなど数カ国では不可動化の方法が十分でなく、再び撃てるようにするのがとても簡単だということです。1月のパリ襲撃で使われた銃はスロバキアのオンラインショップで販売された不可動化銃です。再び撃てるよう改造され、仲介業者を経てテロリストの手に渡っていました」
ベルギーには銃器の扱いに慣れた人が少なくない。06年まで銃を購入する手続きが簡単で、多くの市民が銃を保有していた。ベルギーの銃器メーカー「FNハースタル」の退職者も多く、不可動化した銃を撃てるようにできる技術者に不自由しない。スロバキアで販売された不可動化銃がベルギーで再び撃てるようにされ、密売されたとみられている。「テロリストが使うAK-47はそんなに扱いが簡単ですか」とデュケット氏に尋ねると、「誰でも数時間、練習すれば扱えるようになります。シリアやイラクの戦場に行かなくても、人里離れた森の中で射撃訓練ができるはずです」と答えた。
実射訓練ができる「シェンゲン圏」スロバキア
デュケット氏の言葉を手がかりにスロバキアに飛んだ。首都ブラチスラバの中央駅からタクシーで10分ほど行った2階建ての建物に「ハンター・クラブ」の看板が掲げられていた。赤い鉄扉を押し開け、地階に下りると、オシャレなバーがあった。壁にはめ込まれた防音ガラスの向こうは射撃場だ。
大阪で通算16年も事件記者をした筆者だが、本物の銃を撃つのは生まれてこの方、初めてだ。客はスポーツ射撃の愛好家やカップルが多い。カウンターで「まったくの初心者ですが、銃を撃つことはできますか」と申し込んだ。「いろいろな銃のタイプがあるが、どれで何発撃つのか」と訊かれたので、「拳銃5発と、もし可能ならAK-47を10発お願いします」と答えた。
「AK-47ならあるよ。それではインストラクターの指示に従って」。こう話す店員に旅券を提示し、台帳に署名した。店で記録されるのは旅券番号と名前のみ。旅券のコピーも取られなかった。これなら偽造旅券を使えば、警察や情報機関の監視をかいくぐってAK-47の実射訓練ができる。AK-47の取り扱い手順は4つだ。まず、グリップを右手でしっかり握る。引き金に指はかけない。次に左手でバナナ型のマガジン(弾倉)を引っ掛けるように装着する。そして、弾丸を薬室に送り込むためコッキングレバーを引く。あとは構えて撃つだけだ。
コッキングレバーを引くのに少し手間取ったが、操作は想像していた以上に簡単だった。しかし衝撃の大きさは最初に試し撃ちした拳銃とは格段に違う。防音ヘッドホーンをしているにもかかわらず、「ドーン」という大砲のような音がして、銃口から直径20センチほどの火の玉が噴いた。1発ずつ撃っても頭の中がジーンとする。自動にすれば30発のマガジンをわずか3秒で撃ち尽くせる。パリ同時多発テロの目撃者は筆者に「テロリストは落ち着いてカラシニコフ(AK-47)を構え、タタタタタッとレストランの客を次々と撃ち殺した」と証言した。テロの前に試射を重ねたのは間違いない。
「半グレ」化した若者はアルコールと薬物では自分をごまかせなくなり、イスラム教を騙る過激主義とテロリズムに異様な高揚感と万能感を覚えている。拳銃とAK-47の使用料と弾丸計15発で料金は39・6ユーロ。随分、安い。あまりに簡単にAK-47が撃てたことに驚いたというより、拍子抜けした。