そうした状況にするために何が必要か。私は、デフレは害悪であり、少しずつ物価が上昇していくことが望ましい状況なのだということを国民の共通認識にすることが大切だと思う。そうした共通認識が形成されれば、前倒しの消費も期待できるし、お金を現預金から投資に回すことが期待できる。企業は投資を前向きに考え、借金をして投資をする意欲も湧くだろう。
すると資金需要が大きくなり、金利が生まれ、機能するようになる。企業活動が活発になり、雇用情勢も良くなる。若い人の労働意欲や消費意欲がポジティブになり、お金を借りることの負担が軽くなる。明るい未来を思い描くことができるようになれば、もしかしたら少子化にだって改善が見られるかもしれない。
日銀批判だけでは解決しない
そして、物価が少しずつ上がっていくことが望ましいことだという共通認識のうえで、実際に物価が上がっていることを確認できる状態になることが大切だ。この意味で総務省CPIの欠点を改良するような新たな物価指数の開発意義は非常に大きい。緩やかな物価の上昇は必要なことだという共通認識ができても、実際の物価の変動を的確に捕捉する指数がなく、実際には物価が上がっているにも関わらず、物価は下がっていると示してしまう指数が代表的な物価指数となっていては、持続的な物価上昇は期待できない。
なぜなら「今の世の中の物価は下がっている」ということになれば、人々は値上げした商品を買いたくなくなり、値上げを受け入れることができなくなり、値下げした商品を探し求めたくなる。こうして物価の下落圧力がかかってしまうからだ。実際に物価が上がった際には、上がったということを教えてくれる指数の存在が必要だ。
日銀の政策を批判したり、総務省CPIの欠点を論じているだけではデフレの脱却はできないだろう。日銀はもちろん、各所からデフレの問題点や緩やかな物価上昇の必要性が発信され、継続的な啓蒙活動が行われ、デフレスパイラル脱却のために必要な共通認識が形成されていくことが必要だと思う。私も微力ながら少しでもその貢献をしたいと考え、本稿を執筆させていただいた。
日経CPINowについてはこちら
株式会社ナウキャスト
HP:http://www.nowcast.co.jp/
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。