プーチンの国家主義的世界観
プーチン大統領の演説終盤は、このような愛国的トーンに彩られている。戦死者の遺族をクレムリン宮殿に招き、戦死者たちにはプーチン氏が個人としてファーストネームで呼びかけるという演出が盛り込まれており、聴衆の感動を盛り上げるクライマックスと言えるシーンである。
だがその直後、プーチン大統領は再びロシア連邦の長にしてロシア連邦軍最高司令官としての厳しい表情に戻る。原油価格の下落と西側の経済制裁で経済が停滞し、ようやく一定の水準を回復した社会福祉が脅かされるのではないかと懸念する国民に対して、まずは安全保障と強力な軍事力があってこそだとプーチン大統領はいう。この辺は、KGB中佐として東ドイツとソ連の崩壊を目の当たりにしたプーチン大統領らしい国家主義的世界観といえよう。
そしてこのような世界観は、今後のプーチン政権の出方を考える上でも示唆的である。ロシアが制裁によって一定のダメージを被っていることは間違いなく、経済的に非常に厳しい局面に入っていることもまた確かである。
しかし、そのような経済的状況が国家安全保障に関わるロシアの対外的行動を軟化させるだろうという西側の期待は、ロシア側の論理から見て必ずしも妥当なものとは限らない。ロシアの軍事戦略家たちの間には、「経済が軍事に合わせる」と考える傾向があることはしばしば指摘される。このようなロシアの論理からすれば、シリア介入のように、安全保障や軍事力をより前面に押し出した対外的行動へとロシアが傾く公算は今後も排除できないと考えられよう。
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