まず両社に共通するのは、SPA(製造小売業)でありながら自前の工場を持たないファブレス企業であるということ。ローコストを実現するためにH&Mは世界約20カ国で生産拠点を持ち、協力工場(サプライヤー)は約800社。イケアも世界50カ国で1250の協力工場を持ち、最適生産を実現する。ファッション性を全面に押し出す両社は、デザイナーをスウェーデン本部に抱え、商品企画からデザイン、各国に散らばる生産工場への振り分け、物流の手配などを一手に担う。
両社ともに各国の現地法人は、店舗間での商品の受発注や売れ筋商品の追加オーダーなどファッション鮮度を保つオペレーションを担い、ITを駆使して消費者の嗜好変化やニーズを絶えずスウェーデン本部に情報提供する。
興味深いのは、両社のリサーチの手法。イケアは年間を通して、部署を問わず個別の消費者宅を訪問して、ホームファッションの使い勝手や将来のニーズを吸い上げ、本国の商品開発につなげる。一方のH&Mもスウェーデン本部内に抱える約100名のデザイナーを中心に『インスピレーション・トリップ』と称した、ストリート・ウォッチ、ピープルズ・ウォッチをワールドワイドで絶えず実施し、商品企画やデザインの鮮度を保つ努力をしている。
しかし両社に共通した最大の特徴はその大量なアイテムをワールドワイドで、しかもローコストで世界に供給するその物流システムだろう。イケアは25ヘクタール規模の自前物流センターを愛知県(弥富市)に所有して関西圏と関東圏をカバー。複数の海運業者を駆使して、物流費の削減などコスト削減を積み上げている。「イケアのデザイナーは、わが社の特徴であるフラットパックが40フィートコンテナに幾つ積めるかを考えなければ、デザインできない」(イケア)というほど、商品開発と物流がリンクしているのだ。
かたやH&M。「物流システムに関しては、企業機密」と情報を明かさないが、物流業界の周辺からはこんな情報が流れてくる。
「H&Mが00年に米国進出を果たすと同時に、物流システムを一手に担ったのが中国資本の海運企業OOCL(世界10位前後)。コスト的には、通常委託の3分の1程度だろう」。某物流大手の幹部は、その仕組みを披露する。
H&Mから物流の業務委託を受けたOOCLは、主要生産拠点から集約された商品を上海の保税区に集約し、袋詰めから値札付け、検針といった物流加工を施すというもの。コンテナ詰めされた商品は、日本であれば川崎(神奈川県)に米不動産投資運用会社が08年に建設した「ロジポート川崎」に集約。ここで個店対応の微調整をして配送するという。
一説に日本に1年先駆けたH&Mの中国進出は、この物流システムが前提であったとされ、「まず物流インフラの構築を前提に、出店計画を立てる」(イケア)と共通する。
H&M、イケアの両社ともにグローバル調達や国際ハブ物流によるコストマネジメントに長けており、特にH&Mは粗利率59%(08年度)、営業利益率22%(同)と日本勢を大きく上回る経営効率だ。
互いの利益を重視し
対話を尊重する
スウェーデンの気風
「人口が900万人という自国のマーケットの小ささゆえに、世界市場を見据えるグローバル・シンキングという考え方が生まれた」。スウェーデン大使館の投資部・産業参事官であるハンス・G・ロディーネル氏は、小国でありながら世界と勝負するワールドワイド企業が自国に多い理由をこう解説する。