「日本との再交渉」公約には重みがない
日本では今回、日本との再交渉を公約に入れた最大野党「ともに民主党」が勝利したことで、慰安婦合意の履行に大きな影響が出るのではないかという懸念が語られた。
だが、韓国の政界関係者は「総選挙での野党の公約なんて誰も気にしない」と口をそろえる。中には、「だから韓国の政党政治はまだまだなんだ」と憤る政治学者もいた。
それに、今回の総選挙では政策は一切と言っていいほど争点になっていない。与野党とも来年末の大統領選へ向けた党内の陣取り合戦に忙しく、与党の方が「より多く負けた」だけというのが実相である。経済や北朝鮮といった喫緊の課題すら争点にならなかったくらいであり、ましてや慰安婦問題を含む対日政策を気にする人など誰もいなかった。
だからこそ、「ともに民主党」の選挙戦を指揮した金鍾仁・非常対策委員会代表が選挙期間中に慰安婦合意について「国家間の合意であり、修正できる状況にはない」と述べたり、選挙後に別所浩郎大使と会って「履行を急がねばならない」と話したりということが起きるのである。別所大使に対する発言の時には党の広報が「党の立場には変わりない」と釈明をしたが、それ以上は問題にならなかった。
ただ、金鍾仁氏の場合は党の路線から外れても仕方がないとも言える。氏はもともと全斗煥政権で社会福祉政策を担当した穏健保守であり、金大中・盧武鉉両氏の流れをくむ党のカラーとは異質だからだ。
金鍾仁氏は、次期大統領選へ向けた思惑含みで昨年末に党が分裂するという危機に陥ったことを受けて、総選挙へ向けたイメージ一新のために外部から迎えられた。韓国政界でも「ウルトラC」級の手ではあるが、それでも特に問題視はされない手法だ。今回の選挙で政策が争われていないことの傍証とも言えるだろう。