2024年4月29日(月)

韓国の「読み方」

2016年5月9日

最大の眼目は「ゴールポストの固定」

 さて、最後に合意の中身を改めて確認しておきたい。昨年12月28日に日韓両国の外相がソウルの韓国外務省で記者会見し、明らかにした合意内容は次のようなものである。

 すべての前提となる認識は、▽当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している▽安倍首相は、日本国内閣総理大臣として心からおわびと反省の気持ちを表明するーーというものだ。

 さらに両国の約束として、▽韓国政府が元慰安婦を支援するための財団を設立する▽日本政府が財団に10億円を拠出する▽国連など国際社会において相互非難をしない▽合意がきちんと履行されることを前提に、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認するーーことが明示された。

 そして、前述したようにソウルの日本大使館前に建つ少女像について、韓国政府は「適切に解決されるよう努力する」と表明したのである。この項目は、日本側が「少女像に言及しないと国内がもたない」とねじ込んだもので、韓国側は最後まで抵抗を示していたという。

 慰安婦問題が日韓関係の中心課題となったここ数年の間に、少女像は日韓両国において正反対の意味合いを持つシンボルと化してしまった。いくら朴大統領が剛腕だといっても、簡単に突っ走れるのは財団設立までだろう。少女像の移転は極めてハードルが高い。それが、専門家の多くが当初から抱いてきた見立てだ。

 そもそも合意の意義は、両国が外交交渉を通じて「最終的かつ不可逆的な解決」という合意に達したことを国際社会に発信したことにある。米国や欧州諸国などから歓迎されたことで、合意内容をいじることは日韓ともに難しくなった。「ゴールポストを動かせなくする」ことに最大の眼目があるのだから、少女像問題の解決に時間がかかるのは目をつぶらざるをえない。それが、慰安婦合意の枠組みである。

 日本側で一部の人たちが喧伝した「少女像移転も近い」という考えは、もともと幻想にすぎない。韓国総選挙における与党惨敗で日本側の期待値が下がったとしたら、それは合意履行には悪いことではないのかもしれない。
 

  
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