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2009年12月17日

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阿修羅像 (国宝/奈良時代・734年 奈良・興福寺蔵)

 今回の展覧会で、博物館は阿修羅とお客さんをつなぐ“結縁〔けちえん〕”の場となり得たと思っています。阿修羅の美がお客さんとの縁を結んだということだと思いますよ。博物学的にただ作品を羅列するのではなく、博物館として、美を通して人の心を結ぶトポス( 空間と時間が凝縮され、心の交流ができる場)をつくることができたのではないかと思っています。」

 今回の宝物出陳を決意した興福寺・多川俊映管主も、現代における阿修羅の意義を語る。

 「興福寺の阿修羅像が八部衆(釈迦如来の眷属)のなかでただ一人甲冑を着けていないのも、お優しいお顔をしていらっしゃるのも、激しい争いというものを経験し、その虚しさや愚かさをクリアしているからなのです。

 なぜ現代の方々が阿修羅像に惹かれるのかと言えば、社会に存在するいがみ合いや足の引っ張り合いなど、そういう戦いの場面の苦しみから解き放たれたいと思うからでしょう。人々は自分も阿修羅のようになりたい、と憧れるのではないでしょうか。」

 57年前、日本橋三越でおこなわれた阿修羅展は以下の写真の通り、多くの人を動員した。輸送事情も悪かったから、合計100人の人夫の手で4日間をかけて大切に東京へ運ばれた。おそらく、戦後すぐにこの展覧会がおこなわれた意味は大きかった。敗戦で身内を亡くし、貧しい生活にも疲れた日本人にとって、心洗われるイベントであったはずだ。

昭和27年に日本橋三越で開催された阿修羅展
(資料提供=㈱三越)

 阿修羅像がつくられた天平時代も、戦後もそして現代も、いつの時代にも社会不安はある。その心の不安を受け止めたのが、阿修羅像であったといえる。2009年、多くの人が疲れた気分を癒やし、心の対話を楽しんだことだろう。
 

◎関連記事
「阿修羅と仏像ブーム」
(「古都を感じる 奈良コレクション」  西山厚〔奈良国立博物館学芸部長〕)

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