2022年12月6日(火)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2016年5月21日

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牧野健太郎(読み解き) (まきの けんたろう)

ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

[執筆記事]
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近藤俊子(構成/文) (こんどう としこ)

編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

[執筆記事]

 『東海道五拾三次』は、ベストセラー『東海道中膝栗毛』のいわばビジュアル版、保永堂(ほうえいどう)・竹内孫八さんと仙鶴堂・鶴屋喜右衛門さんが共同出版(⑨)する東海道の「カラー・ガイドブック」だったといえます※。

*『東海道五拾三次』の初版は、新興の保永堂(竹内孫八)が老舗の仙鶴堂(鶴屋喜右衛門)に呼びかけての共同出版だったが、以降は保永堂の単独事業となり、圧倒的な知名度を誇った。朱印に2人の名前の頭文字がある

 

 茶店の右奥に見える、わら束に刺した魚の丸干し(⑤)は、ご近所の安倍川の川魚でしょうか。「弥次さん、喜多さん」が座る縁台には道中笠、帯に粋な煙草入れを挟んでいます(⑥)。

(左)⑤、(右)⑥

 

 そしてくわえキセルで歩くおじさんの姿(⑦)。想像をたくましくすれば、足取り軽やか、ご機嫌な様子に見えます。長い棒を一本かついで仕事の帰り、そう、産地から採りたての自然薯をこの棒を添え木にし、むしろで包んで茶店のおかみさんに納品し終え、家路を急いでいるのです。自然薯の商品価値は、まっすぐで折れることなく美しいものが一番とされます。おかみさんに良い値で買ってもらったのか、腰の巾着も膨らんでいるようです。

 「今夜の酒はうまいだらね♪」

 

 縁台に残された煙草盆のようなものと茶碗(⑧)を見ると、自然薯売りのおじさんが、今し方ここでお茶を飲み、一服休んでいったに違いありません。

 この茶店のモデルといわれるのは、現在・14代目の柴山広行さんが切盛りする「丁子屋」さん。秘伝の出汁で溶いた自然薯を麦飯にかけて食べるのが地元流とのこと。旅人たちは自然薯パワーを授かって、次の目的地へ備えたのでしょうか。

 

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵コレクション」とは 
  米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

  
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◆「ひととき」2016年3月号より

 

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