2024年11月22日(金)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2016年5月21日

 『東海道五拾三次』は、ベストセラー『東海道中膝栗毛』のいわばビジュアル版、保永堂(ほうえいどう)・竹内孫八さんと仙鶴堂・鶴屋喜右衛門さんが共同出版(⑨)する東海道の「カラー・ガイドブック」だったといえます※。

*『東海道五拾三次』の初版は、新興の保永堂(竹内孫八)が老舗の仙鶴堂(鶴屋喜右衛門)に呼びかけての共同出版だったが、以降は保永堂の単独事業となり、圧倒的な知名度を誇った。朱印に2人の名前の頭文字がある

 

 茶店の右奥に見える、わら束に刺した魚の丸干し(⑤)は、ご近所の安倍川の川魚でしょうか。「弥次さん、喜多さん」が座る縁台には道中笠、帯に粋な煙草入れを挟んでいます(⑥)。

(左)⑤、(右)⑥

 

 そしてくわえキセルで歩くおじさんの姿(⑦)。想像をたくましくすれば、足取り軽やか、ご機嫌な様子に見えます。長い棒を一本かついで仕事の帰り、そう、産地から採りたての自然薯をこの棒を添え木にし、むしろで包んで茶店のおかみさんに納品し終え、家路を急いでいるのです。自然薯の商品価値は、まっすぐで折れることなく美しいものが一番とされます。おかみさんに良い値で買ってもらったのか、腰の巾着も膨らんでいるようです。

 「今夜の酒はうまいだらね♪」

 

 縁台に残された煙草盆のようなものと茶碗(⑧)を見ると、自然薯売りのおじさんが、今し方ここでお茶を飲み、一服休んでいったに違いありません。

 この茶店のモデルといわれるのは、現在・14代目の柴山広行さんが切盛りする「丁子屋」さん。秘伝の出汁で溶いた自然薯を麦飯にかけて食べるのが地元流とのこと。旅人たちは自然薯パワーを授かって、次の目的地へ備えたのでしょうか。

 

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵コレクション」とは 
  米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

  
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◆「ひととき」2016年3月号より

 


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