このような状況を受け、5月4日、ロシアのショイグ国防相はNATOへの対抗ということを明示しつつ、西部軍管区に2個師団、南部軍管区 に1個師団を年内に新設することを発表した。具体的な場所は、ボロネジ州、スモレンスク州、ロストフナドヌーであり、いずれもベラルーシないしウクライナとの国境付近である。各管区に1万人規模の部隊の配置を予定している。
周辺での軍事演習も活発に
そして、NATOやNATO主要国によるロシアのお膝元での軍事演習が頻繁かつ大規模に行われていることもロシアの反NATO感情を刺激している。5月だけみても、かなりの数の軍事演習が行われた。
旧ソ連構成国で、ロシアの隣国であるエストニア(NATO加盟国)では、5月2日から20日まで、1500人のNATO軍人を含む、6000人による軍事演習が行われた。
5月11日から26日には、やはり旧ソ連構成国で、ロシアと厳しい関係にあるジョージアで、米英軍が参加する最大規模の軍事演習が行われた。米軍約650人、英軍約150人、ジョージア軍約500人が演習に参加し、米軍の主力戦車も参加したという。ジョージアはこの軍事演習をNATO加盟に向けた重要な一歩と考え、このような軍事演習を続けたいと表明している。一方、ロシア外務省は、同演習をNATO軍によるジョージア国土の搾取であり、南コーカサス地域の情勢を不安定化させるための挑発だと激しく批判した。
また、NATOは5月末にロシアを抑止するためだとして、NATO諸国から4000人、東欧13カ国から1万人が参加する、極めて大規模な演習を東欧で始めた。5月27日バルト三国での軍事演習を開始し、それと連動して米軍がドイツから400台の武装車両とともにチェコ経由で東欧入りし、6月にかけてポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニアへと約2200キロを移動していった。
そして、6月6日からポーランドにて、ポーランドや米国をはじめとした24カ国による軍事演習が始まり、17日まで続けられる。全参加者が約3万1000人に及び、軍用機やヘリコプターが計105機、軍艦12隻などが投入され、ポーランド史上最大規模の軍事演習となった。そして、この演習には、NATO加盟国のみならず、ロシアと厳しい対立関係にある旧ソ連のジョージアやウクライナも参加している。そして、演習が行われているポーランドはNATO加盟国では、バルト三国と並び、最もロシアに対して厳しい立場を保持している国である。
この5月末からの一連の演習の目的は、ロシアを抑止するためだけでなく、東欧のNATO加盟国の軍事力がいかほどかを試すことでもあり、演習内容も、実弾演習、指揮所演習、サイバー作戦など極めて現実の戦闘や危機に即したものとなっている。そして、2年以内にNATOの同盟国を一つの有機的な同盟に向上させ、加盟国間の戦略を調整することが最終目的となっている。