NATOは対ロシア抑止強化へ
以上のように、NATOは反ロシア的な動きを多面的に進めているが、この傾向は当分続きそうだ。5月4日には、NATO欧州連合最高司令官に、スカパロッティ陸軍大将(前在韓米軍司令官)が着任したが、彼は対露抑止力強化を垂心してきたブリードラブ前司令官の方針を継承すると述べているからである。同大将は、偶発的な事故や見当違いを防止するためにもロシアとの対話は重要だとしつつも、ロシアが国際法に反するような姿勢をとり続ける限り、対話が持つ意味は限定的となるとして、ロシアに対し、強硬な姿勢を示した。
他方、5月13日に、米国のオバマ大統領は、ワシントンDCで北欧5カ国の首脳と会談し、対露抑止政策を強化していくことで一致した。北欧はロシアに接しており、またウクライナ危機以後、ロシアがバルト海や北欧周辺で挑発的な行為を繰り返していることから、このような合意が生まれることは自然な流れである。
対話の継続こそ、関係改善への一歩
このように、ロシアとNATOの関係は極めて厳しい状況になっていると言える。だが、ポジティブな動きも皆無ではない。ロシアとNATOは、ウクライナ危機以降、とりわけ厳しい関係にあったが、4月には約2年ぶりにNATOロシア理事会が開催され、対話が再開されていた。その際には、緊張緩和には全く至らなかったが、5月19日にNATO外相理事会が対ロシア関係を協議し、抑止力強化は行いつつも、それと並行して軍事活動の透明性確保と偶発的事故の防止のため、ロシアとの対話継続を決定した。そして、NATOロシア理事会を、7月に予定されているNATOサミット前に開催する必要があるとの認識で一致した。なお、前述のように、NATOは7月のサミットで、対露抑止力強化のためのポーランド及びバルト諸国への4大隊展開について最終決定をする予定であり、それに対してはロシアが激しく反発していることから、サミット前のNATOロシア理事会も相当荒れることが予想される。
それでも、対話の継続こそが、今後の関係改善には必須である。対話を通じ、少しでもロシアとNATOの溝が埋まり、ひいては欧州の安全保障がより確たるものとなっていくことが望まれる。
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