ロシアが経済関係、武器供与などでASEANとの関係を強めようとしていることについて、5月18日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説で、シンガポールISEASのストーリーとロシア国際問題評議会のツヴェトフが懐疑的な見方を示し、ロシアのアジア政策は第一に中国、それに次いで日韓ということになろう、と言っています。要旨、次の通り。
5月19日、ロシアはASEANとの関係20周年に際し、ソチで、ロシア・ASEAN首脳会議を開催、ASEAN重視を打ち出した。ロシアの東方外交は西側との対立が深まる中、強化されている。特に西側の経済制裁と安い油価で、ロシア経済が危機に陥るなか、ロシアは新しいパートナーと成長の機会を求めている。
東南アジアへの武器売却の拡大に熱心
ロシアは東南アジアへの武器売却の拡大に熱心である。また、エネルギー部門、特に石油とガスの掘削、民生原子力技術の売り込みも目論んでいる。オバマも出席する9月のASEAN主導の東アジアサミットなどにも参加しようとしている。
しかし、ロシアと東南アジアの経済交流は大きくない。2015年にASEANとロシアの間の貿易は240億ドル、ASEAN加盟国の総貿易額の1%に満たない。ASEANにおけるロシアの投資は減っている。ASEANとEEU(ユーラシア経済連合)間の協力についても、東南アジアの指導者の熱心な反応は期待できない。
プーチンは、中国の自己主張の強まりに慌てている国々への武器売り込み拡大については、より確かな地位にある。ロシアは既にベトナムの主要な武器供給国であり、インドネシア、マレーシア、タイも、西側製よりも安く同程度に優れたロシア製の武器を欲しがっている。
ロシアの東南アジアにおける軍事的足跡は、控え目だが増大している。ベトナムはロシアの軍艦と空母がカムラン湾の軍事施設に無制限に立ち寄ることを認め、ロシアの戦略爆撃機がそこで燃料補給をしている。最近、ブルネイとインドネシアにおける二つの大きな多国間軍事演習にロシアの軍艦が参加した。しかし、ロシアにとり、欧州や中東に比して、東南アジアはいまだ戦略的には副次的なものである。
南シナ海問題については、ロシアはバランスをとった立場をとろうとしている。ロシアには中越(両国ともロシア製武器の購入国であり戦略的パートナー)を怒らせる余裕はないが、紛争が過熱するにつれ、バランスを維持することは困難になろう。最近、ラブロフ外相は、南シナ海問題は中国と他の領有権主張国の間の交渉のみによって解決されるべきで、無関係な国は介入を止めるべし、と述べた。これは、ベトナムの機嫌を損ねたが、中国を喜ばせた。ロシアの国営エネルギー企業がベトナムのEEZ内でのプロジェクトに参加しているが、中国が同水域への権利行使を強行すれば問題となろう。
しかし、ロシアは、ASEAN関連外交では重きをなしておらず、ロシアは、米中に肩を並べる影響力を持てないフォーラムにはあまり注意を払わない。
近い将来、ロシアのアジア政策の焦点は中国であり、第二次的に日韓、ということであり続けよう。ロシアが欧州、ウクライナとシリアを含む「近い海外」に焦点を当てていることを考えれば、ロシアのアジアへの軸足移動には困難があり、対中考慮からも、ロシアが東南アジアの特定の国と緊密過ぎる二国間関係を持つことはありそうにない。
出典:Ian Storey & Anton Tsvetov,‘The Limits to Russia’s Pivot to Asia’(Wall Street Journal, May 18, 2016)
http://www.wsj.com/articles/the-limits-to-russias-pivot-to-asia-1463590264