2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年6月14日

 ワシントンポスト紙の5月11日付社説は、フィリピンの次期大統領に選出されたドゥテルテの言動が、中国の拡張主義に対抗しようとする米国の努力を既に損ねている、と懸念を表明しています。要旨、次の通り。

 比大統領選でのドゥテルテの選出は、ポピュリストのデマゴーグが、信頼されていない政治的エスタブリッシュメントに勝った時、何が起こるかという例をまさに示そうとしている。結果は、フィリピンにとっても米比同盟にとっても良くないものとなりそうだ。

 前任者のベニグノ・アキノ3世は、力強い経済成長を達成し、中国の南シナ海での拡張主義に直面して米比軍事同盟を強化した、旧エリート層の中心人物である。アキノの成功にもかかわらず、貧困と汚職が深く根を張り、39%の有権者が、ドゥテルテの過激な変化の約束を受け入れた。

 明らかに不可能な約束も含まれている。ドゥテルテは、6カ月以内に暴力的犯罪をなくすと言った。マニラ湾に犯罪者の死体を浮かべてやるとか、2012年に中国に占拠されたスカボロー礁にジェットスキーで乗り付けて国旗を立てるといった約束は、誇張として退けられよう。

ドゥテルテ新大統領(Getty Images)

1000人以上を司法手続きを経ずに処刑

 しかし、ドゥテルテの脅威にはレトリック以上のものがある。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、彼がダバオ市長時代の20年間に、ストリートチルドレンを含む1000人以上の犯罪の嫌疑のある者を司法手続きに則らずに処刑したとして、「暗殺団市長」と呼んでいる。ドゥテルテは、弁明するどころか、同じことを国家規模で行うことを約束し、容疑者を自分で殺害し、自らに大統領特赦を与える、と言っている。

 旗を立てに行くとの大言壮語にも拘わらず、ドゥテルテは、中国の領有権主張を強制する企てを抑止する、米国の努力を駄目にし得る。アキノは、適切にも、スカボロー礁についての中国との二国間交渉を拒否し、米国がフィリピンの5カ所の基地を用いることを認めつつ、案件を国連の裁判所に提起した。両国は、最近、合同海空パトロールを始めた。

 しかし、ドゥテルテは、米国との同盟について疑問を呈し、中国との交渉に乗り出す用意があることを仄めかした。ミンダナオ島での中国による鉄道建設と引き換えに海洋紛争を脇に置くことすら言及している。習近平が喜んで賛成することは疑いない。

 フィリピンの楽観主義者は、「ドゥテルテの粗野なレトリックは自らを政治的アウトサイダーと位置付ける意図であって、実際に就任後に行うことにはほとんど示唆を与えない」と言うが、東アジアにおいて中国の伸長を抑止するのに十分な対抗勢力を結集しようとする、既に難しくなっている米国の任務は、さらに困難になろうとしているように思われる。両国の責任ある人々は、米国にもドゥテルテのような大統領が誕生しないことを願うしかない。

出典:‘In the Philippines, a dangerous strongman’(Washington Post, May 11, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/in-the-philippines-a-dangerous-strongman/2016/05/11/134c6138-1799-11e6-924d-838753295f9a_story.html


新着記事

»もっと見る