2024年4月25日(木)

BIG DEAL

2016年6月23日

 「聞く・話す」において、電話や来客応対を初級とすれば、M&Aの現場では、様々な会議や交渉の場で議事進行の司会を務め、自らの設定したゴールに向けて意見集約をすることが求められる。ちなみに、このような会議や交渉は、電話会議になると途端に難易度を増す。相手の顔が見えないため、口の動きや表情が分からないからだ。

日本英語の典型は、最後に「ね」をつける

 ところで、交渉の場というと口角泡を飛ばして激論を交わしている場面を想像しがちだが、意外に淡々としている。ただし手を替え品を替え、自分が到達したい地点を着実に目指していく。それは異なる価値観の間で妥協点を見出す作業に似ている。このようなレベルになると、TOEICで何点取っているかよりも、いかに創造力を駆使してクライアントのために戦えるかという人間力の大きさを問われるような世界になる。TOEICで900点以上取っているようなNative並みの人で交渉が全くできない人もいるし、ブロークンなジャパニーズアクセント丸出しの人でも見事に交渉を纏める人がいる。

 ちなみにジャパリンギッシュと言われる日本英語の典型は、最後に「ね」をつけることだ。

 「This condition is very important for our companyね」

 という具合だ。シングリッシュと言われるシンガポール英語は語尾に「了」から来た「La」を付けるので有名だが、日本人にも独特の癖があるのである。関西人は「ね」のかわりに「やねん」を付けるので、いきなり英語が関西弁モードになる。ただ、シングリッシュだろうが関西英語だろうが、クライアントの望むゴールに辿り着ける人こそ「英語のできる人」なのである。

 このようなレベルに達するにはどうしたら良いか? 誰もが興味を持つところであろう。だが残念ながら秘策はない。英語に接する機会を増やす以外に上達の道はないのである。英語を使わないと生活が成り立たないとか、極端に言えば生死に関わるような環境に身を置くと英語は間違いなく上達する。また穴があったら入りたいような恥ずかしい経験というのも英語の上達にはプラスだ。

 個人的な話で恐縮であるが、私は新卒で入社した会社の5年目にニューヨークで勤務する機会を得た。極めてドメスティツク(Domestic)な環境で育った私は、海外と言えば学生時代の卒業旅行ぐらいなもの。赴任前に3カ月ほどの英語の詰め込み研修は受けたものの、言葉に不安を抱えて渡米した。そして不安は的中。最初から言葉が大きなハードルになった。ニューヨークと言えば人種のるつぼ。様々なバックグラウンドの人がいて、その発音やアクセントも様々。だれも研修所の先生のようなきれいな英語を喋ってくれない。生活のセットアップは、今では全部ネットで済むだろうが、当時は全て電話。電気、ガス、水道、そして電話。口座開設は全て電話だ。顔が見えないし発音が聞こえない。えらく難儀した。自宅電話の口座開設を会社の電話でしている時の事、Touch Tone Phone(タッチトーンフォーン)にするかRotary Phone(ロータリーフォーン)にするか選べと言われ。思考が止まった。

 「それなんですか?」

 前者はプッシュホンであり、後者はダイアル回線電話だ。日本語でカタカナになっている和製英語には要注意だ。ちなみにシャープペンシルは英語で何ていうかご存知だろうか?同僚に「シャープペンシル貸して」と言ったら、「どうぞ。シャープじゃないけどね」と先の丸くなった鉛筆を渡された。シャープペンシルの英語はメカニカルペンシルなのである。こんなことでいちいちつまずいていた。


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