民主主義国のなかで、インターネットによる選挙運動を禁止していた日本は稀な存在だ。海外の多くの国では、選挙運動は原則自由。日本は逆に、法律が認めた範囲内でのみ選挙運動が許される。この範囲を決めているのが公職選挙法だ。
公選法は選挙運動のために配布できる文書図画(とが)の種類を規定しており、これまでビラや葉書に限られていた。インターネットは「法定外の文書図画の配布」に該当するという総務省の“解釈”によって、明文化されていないにも関わらず、事実上禁止。今回、公選法を改正して、「インターネットを使って配布してもよい」という条文が追加されて、やっとネット選挙が解禁された。
官僚も警察も分からないルール
公選法の考え方は、選挙運動での悪事や財力による不平等をいかに防ぐかに主眼を置いている。そのため規制の多い日本の選挙運動は、「べからず」選挙とも揶揄される。
「買収の温床になりやすい」との理由で特定の候補者を当選させる目的の戸別訪問は禁止されているが、買収行為そのものを取り締まればよく、戸別訪問自体の禁止を問題視する意見もある。
また、選挙費用を抑える目的で、運動員を除いて飲食物の提供も湯茶や茶菓子のほかは禁止されている。同じお茶でも、缶に入ったものはダメ、湯飲みならOKとその線引きもよく分からない。
選挙運動を規制する公選法の目的は形骸化しており、規制が細かいがゆえに、何が合法で何が違法かも明確でない部分が多くある。元自治省選挙部長の片木淳氏は、「個別の活動が選挙違反になるかどうか、国会議員から頻繁に電話で相談がありました。長年公選法の解釈に携わってきたベテラン職員ですら即答できない。
戦前の大審院の判例なども引っ張りだしてきても、一般論しか回答できず、実際に摘発されるかどうかは最終的に警察の判断になる。当時の警察庁刑事局長ですら国会答弁で、細かすぎる公選法の規制に疑問を投げかけていました」と現役当時を振り返る。
選挙後に有権者にお礼を言ってはいけない、休憩所を設けてはいけない、など社会常識に照らし合わせてもおかしな規制はいまだに残っている。ネットを解禁しても、誹謗中傷やなりすましを防ぐとの名目で、依然として多くの制限が設けられている。選挙運動でのインターネット利用を妨げてきた公選法は、なぜこんな規制だらけになったのか。