筆者は、2008年と12年の米大統領選挙において、ワシントンに隣接するバージニア州北部にあるオバマ選挙対策本部に、研究の一環として入り、草の根運動を行った。草の根運動には、有権者登録の活動、電話による支持要請、戸別訪問、投票に出向くよう促す運動、運動員のリクルートがある。戸別訪問では、オバマ陣営が標的としている有権者の家をピンポイントで訪問をし、フェイス・トゥ・フェイスで説得に当たる。08年から10年の中間選挙を経て、12年まで続けた戸別訪問の軒数は、合計で4211軒になった。
12年の米大統領選挙においてバージニア州は、オバマ大統領率いる与党民主党か野党共和党のどちらに転ぶのか予想が困難であったために「揺れる州」と呼ばれ、注目を集めた。同州北部フェアファックス郡のオバマ陣営の現場責任者であるパーカー・ラムズデル(28)と彼の部下の選挙スタッフに、大統領選挙の最中、日本の選挙制度について語ったことがある。
「日本では戸別訪問が禁止されている。だから学生たちに授業の中で戸別訪問を紹介したい」
「日本は本当に民主主義なのか」
彼らは不可解な表情を浮かべていた。草の根運動員と有権者が、政策や争点について議論をする戸別訪問は、民主主義国家では当然実施されているという認識に立っているようだった。
「日本では、候補者のテレビ広告とネット選挙も禁止されている」
筆者がこう加えると、パーカーたちはすかさず質問をしてきた。
「日本では、戸別訪問もテレビ広告もネット選挙もなしに、どうやって選挙をやっているんだ」
日本では選挙カーに乗って選挙は行われると回答したが、依然、理解できない様子だった。この出来事は、なぜ米国に「戸別訪問・テレビ広告・ネット選挙」といった三種の神器が根付いているのかを考察するきっかけを与えてくれた。筆者は、以下の点を挙げる。