第1に、異文化的視点から述べると、米国の「行動志向の文化」の影響がある。行動志向の文化では、国民に、個人の遂行や行動が変化をもたらすという信念がある。そのような文化では、戸別訪問やネット選挙により、政治が「変わる」という発想が先行するのだ。
第2に、米国の「平等」という文化的価値観の存在も看過できない。戸別訪問とネットでは運動員と有権者が、地位や職業に関係なく、平等な立場で政策や争点について議論をする。
第3に、米国には、一般有権者の政治参加という土台があるのは間違いない。ボランティアの草の根運動員は、仕事や家族があっても、無償で運動に参加する。彼らは、たとえ無償でもオバマ大統領の医療保険改革法を保守派から守ることに意義を見出しているのだ。政治参加しないことが、後に自分たちにコストとして跳ね返ってくるので行動を起こしていた。筆者が所属していたオバマ選対では、母親の指導のもとで子供までが、草の根運動員が配布するパンフレットの整理をしていた。
規制では有権者の関心は高まらない
日本では戸別訪問やテレビ広告に関して、「買収の温床になる」、「特定の組織を抱えた候補者が有利になる」、「候補者間の競争がエスカレートする」といった懸念が指摘されている。筆者の知る限り、戸別訪問でオバマ陣営の運動員が逮捕されたことはない。米国では、買収などの不正行為の情報は、即座にネットを通じて拡散するからだ。
特定の組織を抱えた候補者が有利という問題については、単純に日米を比較することはできないが、オバマ陣営の西部ネバダ州での勝利が参考になる。同州におけるロムニー陣営のモルモン教徒の組織票に対し、オバマ陣営は「LATINOS FOR OBAMA(オバマを支持するラテン系米国人)」という団体に属する中南米系の運動員を活用し、同系の票を獲得していった。
ネガティブなテレビ広告は、確かに候補者間の過剰な競争を生む。オバマ陣営は、歌が下手なロムニー候補が好んで歌う国民的な愛唱歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」をBGMにして、海外に雇用を流出させている点、ケイマン諸島に投資をしている点を突いた広告を流した。ネガティブかポジティブかを問わず、ユーモアに溢れ、効果的な選挙広告は、有権者を引きつける。
上記以外にも戸別訪問とテレビ広告に懸念材料はあるだろう。だが、日米の文化的相違の存在にかかわらず、戸別訪問とテレビ広告の解禁は政治参加を促す刺激剤になるという点で、規制をかけるよりも意味があるのだ。