オバマ陣営は、チームリーダーとキャプテン及びメンバーを結び付けようと、「ダッシュボード」というウェブサイトを使用した。そこを見れば一目で選挙運動の状況が分かる。筆者が、オバマ選対で草の根運動に参加している最中、選挙スタッフは新しいボランティアの運動員にダッシュボードに加わるように勧めていた。ダッシュボードを見ると、自分の選挙区のチームリーダーやキャプテン、イベント等に関する情報が収集できる。また、ボランティアの運動員は、自分が行った戸別訪問の軒数や有権者登録数を掲載して、情報の共有もできた。陣営内でコミュニケーションを促進し、チームとしての結束力を投票日まで維持できる。ネットは、地上戦の柱である戸別訪問の後方支援の役割も果たしていたのだ。
候補者と有権者双方向こそ意味がある
ネット選挙に関して、日米の発想の相違が顕著に表れている。日本では「発信」を重視し、政党や候補者から有権者に向け情報発信を行うことに重点を置いている。一方、アメリカでは、双方向のコミュニケーションを通じて有権者に選挙活動参加を促すツールとして、ネットを利用している。オバマ陣営では、「受信」に価値を置き、ネット上のお互いのやりとりから得た情報を収集分析し、選挙運動に活かした。
例えば、支持者にネット上でアンケート調査を実施した。支持者の年齢について尋ね、次にアイデンティティに関して複数回答を求めている。ある支持者は、アジア系、環境保護論者、若者、同性愛者、女性と回答するかもしれない。オバマ陣営にとってはかなり支持者を絞り込むことができ、効果的にアプローチをかけることができる。
ネット選挙のみで、有権者の政治に対する関心や意識を高めるのは困難である。米国は、戸別訪問、テレビ広告を経て、ネット選挙に至っているのに対し、日本はネット選挙に過度な期待と警戒を寄せている。13年3月、コロンビア大学で留学生を対象に、異文化的視点からオバマ陣営の選挙戦略について講義をした時、参加者(筆者も含む)の国の中で戸別訪問が禁止されているのは、日本、中国、サウジアラビアの3カ国だけであった。
筆者は、08年と12年の双方の米大統領選挙で、オバマ陣営が「戸別訪問・テレビ広告・ネット選挙」の三種の神器を融合させ、シナジー効果を発揮してきたのを、内側から観察してきた。一般有権者の政治参加の促進と投票率向上には、ネットのみならず、戸別訪問とテレビ広告を含めた選挙戦略により、シナジー効果を発揮する必要がある(図)。特に投票率を上げるには、投票日当日の三種の神器を活用した選挙運動が欠かせない。事前に、オバマ陣営は、支持者に「コミットメント(約束)カード」に投票に出向く時間帯を記入させ、投票日に出向いたか確認する戸別訪問を実施し、投票率を上げている。オバマ陣営によれば、有権者に投票日の計画を立てさせると、投票率が4.1%上がるという。
日本では依然として公職選挙法により、ネット以外にも多くの選挙活動が禁止されている。そこでも公選法の改正が求められている。今こそ、日本は「地盤・看板・鞄」の選挙から脱却し、「戸別訪問・テレビ広告・ネット選挙」への道に進むべきである。
WEDGE6月号特集『ガラパゴス過ぎる「ネット選挙」』
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◎不可思議な規制だらけ 戦前からの公職選挙法
[特集] どうすれば良くなる?日本の政治
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