安保激変

2016年6月29日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 仲裁判断が7月上旬にも出ると見込まれている中、ドゥテルテ新政権が仲裁手続きを取り下げるという噂まで広まっている。中国はこの仲裁手続きに参加せず、裁定も受け入れないという立場を貫いている。裁定が中国に不利な場合、国連海洋法条約から脱退することも検討していると伝えられている。だが、それは中国にとってもできれば避けたい選択肢だろう。代わりに、仲裁裁定を受け入れないことに対する国際的な非難をかわすため、水面下で中国からドゥテルテ陣営に関係強化のための様々な働きかけがなされているだろう。

埋め立て着手は時間の問題

 南シナ海における次の注目点は、いつ中国がスカボロー礁の埋め立てに着手するかということだ。海南島、西沙諸島、南沙諸島に加えて、スカボロー礁に軍事基地を持つことで、初めて中国は九段線の軍事的支配を完成させることができる。仲裁裁定がスカボロー礁における中国の行動を違法とみなせば、これを受け入れないことを示すために埋め立てに着手するというのが大方の見方だ。だが、中国はドゥテルテ政権を懐柔することを優先し、しばらくは埋め立てを先延ばしにするだろう。だが、あくまでも先延ばしであり、埋め立て着手は時間の問題である。

 スカボロー礁は、米軍がすでに利用している旧米海軍基地のスービック湾や、クラーク旧米空軍基地などに近い。スカボロー礁に軍事基地ができれば、中国はルソン島の軍事施設を監視し、直接ミサイル攻撃できるようになる。4月下旬に、カーター米国防長官は、中国によるスカボロー礁の埋め立てに強い懸念を示し、「軍事衝突を引き起こし得る」と発言した。だが、フィリピン自身が中国との経済協力を重視し、領土問題で妥協をするなら、アメリカがスカボロー礁を守ることも、南シナ海の平和と安定を維持することも難しくなる。

 米比同盟の今後も不透明だ。フィリピンの憲法は外国軍の常駐を禁止しているが、アキノ政権がオバマ政権と結んだ防衛協力強化協定(EDCA)は、米国の実質的な駐留に道を開き、南シナ海における米軍のプレゼンスを強化する一方、米軍がフィリピン軍の近代化や能力構築にも貢献する内容となっている。このEDCAについて、ドゥテルテ氏は外国軍の駐留には懐疑的だが、最高裁がこれを合憲とした判断を尊重するとも述べており、当面は受け入れるだろう。たが、当選後にドゥテルテ氏は、これまでの慣行には従わず、最初にアメリカ大使ではなく、日本次いで中国の大使との会談を選んだ。これが彼の対外政策上の優先度を示しているのかもしれない。アメリカのゴールドバーグ大使との会談では、ドゥテルテ氏は中国との軍事紛争でアメリカはフィリピンを支援するのかと尋ね、アメリカに対する不信をのぞかせた。

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