安保激変

2016年6月29日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 米比同盟は、旧宗主国と旧植民地の間の同盟である。根底にはフィリピンの反米感情とナショナリズムがあり、それが1992年に米軍のフィリピン撤収につながった。冷戦が終結し、米軍にとってのフィリピンの価値が下がったこと、またフィリピンと中国の関係が改善したことも米軍撤収を後押しした。しかし、米軍撤収後に中国がフィリピンからミスチーフ礁を奪ったため、米比両国は1999年に派遣米軍に関する協定(VFA)を結び、米軍のフィリピン常駐を慎重に避けながらも、軍事協力を徐々に拡大してきた。そして、2012年に中国がスカボロー礁を奪ったことを機に、EDCAに関する協議が始まった。米比両国は南シナ海における中国の脅威を共有し、同盟の価値を再発見したのだ。

 しかし、ドゥテルテ政権が公約通りに人権を無視するような政策を実施するなら、アメリカ議会が黙ってはいまい。アメリカ議会の批判に過剰反応して、ドゥテルテ政権がナショナリズムと米国への不信を煽る一方で、対中宥和の道を選ぶなら、米比同盟は再び困難な時期を迎えるだろう。加えて、同盟に懐疑的なドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領になれば、米比同盟は崩壊する可能性もある。仮にそうなれば、中国は南シナ海を文字通り「中国の湖」とすることに邁進するだろう。

 このようにフィリピンに新政権ができ、米比同盟の今後も不透明であるが、南シナ海の安定を維持するため、日本の役割は大きい。ドゥテルテ氏の出身地であるダバオ市は日本と関係が深く、当選後の同氏は真っ先に日本の石川和秀大使と会い、日本との関係を一層強化する意向を示した。安倍政権は「開かれ安定した海」を重視し、国際法に基づく海洋紛争解決を訴えている。南シナ海で現状変更を繰り返す中国に対し、日本は法の支配を通じた南シナ海の平和と安定の維持という代替案をドゥテルテ政権に提示し、どちらがフィリピンの、そして地域の利益になるかを問わなければなるまい。

  
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