2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年7月4日

 本論説の指摘するように、中国の戦術は①力の誇示、②経済力を使ったアメとムチ、③ともに「偉大な中華民族」に属するという愛国主義への訴え、などです。しかし、台湾、香港に対する中国の方策は、いまひとつ決め手を欠くという状況が続いています。

台湾への直接的な武力行使はない?

 蔡英文は就任演説において、台湾は、米国、日本、EUと「価値の同盟」を結びたい、として「民主、自由、法治」の重要性を強調しました。そのような台湾にとっては、祖先の多くが同じ漢民族であるかどうかより、民主・自由の価値を大事にするかどうかがより重要です。また、香港については「一国二制度」の枠内で、自由が維持されることが喫緊の重要事です。

 台湾や香港の人々にとって、今日の中国は「魅力的な国ではない」と受け取られていることを、中国共産党幹部は気づいていないか、あるいは、そのふりをしているのでしょう。

 台湾と香港を同時に取り上げる際には、両者の法的地位が異なることに注意する必要があります。つまり、香港については、英国から中国に返還され、その主権は中国のものです。台湾については、日本、米国、EUも中国側の主張(「台湾は中国の一部」)に一定の理解を示しつつも、これに対し、法的に同意を与えたり、承認したりしていません。

 なお、香港への「一国二制度」の方式を台湾にも適用するという考え方は、鄧小平時代のものであり、今日の台湾にはもはや意味をなさないものと言わなければなりません。

 本論説では、結論として、「中国は国内外であまりにも多くの問題を抱えているため、今は、台湾海峡で新たな危機を招くような危険は冒せないだろう」と述べています。この見方は多分に、希望的観測と呼んでよいものではないでしょうか。

 台湾海峡において直接的に武力を行使することはないとしても、中国が外交戦により、台湾承認国を中国承認に切り換えさせること、国際場裏から台湾を締め出すこと、経済関係を利用して台湾人ビジネスマンを締め付けること、台湾への中国からの観光客を減らすこと、などは決して弱まることなくこれからも続行されると想定するほうが、より現実に近いのではないかと思われます。

  
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