2024年11月22日(金)

母子手帳が世界を変える

2016年8月18日

 ボルガン県というモンゴルでは平均的な県が、その検証の場として選ばれた。ボルガン県の面積は、関東地方よりも大きい4万3730平方メートルに、人口は約5万4000人。モンゴルの首都ウランバートルから約500キロ、車で7時間ほど西に向かったところにある。

保健医療関係者の意識の高さ

モンゴルでの研究で、ランダム化の結果に一喜一憂する医療センターの医療従事者たち

 ボルガン県の中心ボルガン市に、すべての村からの関係者に来てもらって、研究の意義に説明させてもらった。ボルガン県にある村をくじ引きで半分に分け、半分の村は、今すぐ手帳の配布が始められ、残りの半分は、研究終了後(約一年後)に配布が始められる。みな、早く母子手帳を配布してほしいと思う一方、研究をすることの意義も充分に理解してもらった。保健医療関係者の意識の高さには感銘を受けた。

 モンゴルの村には、2000〜3000人ほどの住民がおり、村ごとに必ず医療センターがある。ここには数名の家庭医や医療従事者が常駐しており、実は村の住民をすべて把握している。基本的な保健医療はすべて無料であり、医療サービスは先進国の先端医療とはくらべれないものの、一般的には信頼も高い。社会保障番号(マイナンバー)も何年も前から導入されている。

 妊婦健診や出産も、原則、村の医療センターで行われる。産後の健診は、家庭医が自宅を訪問して行う。モンゴルでは多くの住民が遊牧民で、テント(ゲル)による生活を送っているが、基本的には、季節的に移動するものの、移動する場所は大体決まっており、それも家庭医たちは把握している。

 妊娠がわかったら、医療センターを訪れる。配布が決まった村では、その際に、母子手帳が配られ、その使い方も含めて説明される。

 出産は原則、村の医療センターで行われるのだが、何らかのリスクがあると、県病院やウランバートルの医療施設に紹介されるため、さまざまな理由から四分の一の妊婦さんが、別の地域の病院で出産する。それでも、自宅分娩はほとんどない。

 村で母子手帳を受け取った妊婦さんをすべて把握するため、研究チームでは、家庭医が自宅訪問する産後健診に合わせて、お母さん側と医療施設側の双方から必要な情報をいただいた。遅れて配布する村でも、同じように産後健診の際に情報をいただいた。

 その結果、母子手帳を受け取ることで、妊婦健診の受診率が改善することがわかった。また、妊娠中の合併症がより多く見つかること、受動喫煙の割合が減ることも同時に観察された。これらは、妊婦健診の受診率が向上することの副次的な効果だと考えられた。


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