妊婦健診の受診率は、実は母子保健はおろか、住民の健康にとっては最重要である。なぜなら、住民が制度側に来て初めて、すべての必要な保健・医療サービスが提供できるのであり、妊婦健診は人生で一番最初に(胎児として)、制度側を訪れる機会だからである。逆に言えば、妊婦健診をしっかり受診することが、ワクチンなどその後の必要な保健医療サービスの普及につながるのであり、多くの途上国ではこれが最優先課題となっている。
妊婦健診の必要性が認識されていない
ただし、貧困層の家庭の場合は、妊娠がわかっても医療センターを受診するという割合が減ってしまうため、結果的に母子手帳を受け取らずに、妊婦健診も受診しないまま、施設における出産を迎えてしまうということがあり、こういう意味で効果が薄れてしまう傾向があることも分かった。貧困層の家庭の妊婦健診受診率が低いのは、妊婦健診が無料であることからも、財政的な理由というよりは、その必要性が強く認識されていないことによると考えられる。
この結果は、英語で多くの研究者が読む雑誌に掲載され、
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0119772
さらに、この結果は、グローバルレベルで標準的な保健や医療の方針を提示しているコクランレビューにも収載された。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD002856.pub3/abstract
これらの結果を踏まえて、世界保健機関としても、推進することを検討していると聞いている。
この研究、後日談がある。
この研究に参加してもらった子どもたちが、3歳になった時に、それぞれの家族にもう一度声をかけて、子育てや子どもの発達について、いろいろ情報をいただいた。これらを分析してみたところ、母子手帳を配布された場合、子どもの発達がよりよく促進されるという結果になった。
母子手帳には子どもの発達記録を記入するところがあり、これらに記入していくことで、わが子の発達をより正確に把握することになり、親子の関係性がより濃密なものになるということのようである。