聞こえる世界と聞こえない世界の橋渡しに
初瀬 でも、そのエッセイがキッカケで仕事に繋がったことも多いんじゃないですか? 独立してからはどんな企業に提案をされたのですか。
松森 講演の依頼が増えました。小学校や中学校、高校の授業でお話しすることもありますし、ユニバーサルデザインの提案ということでは、羽田空港の国際線ターミナルに関わりました。
国際線ターミナルは、建設前の企画の段階から障害のある方や様々な当事者が集まって、誰もが利用しやすい空港にするための議論を、2年半で約40回繰り返しました。空港内の音声情報を文字情報でも伝えるようにしたり、トイレには非常時を光で知らせるフラッシュライトの設置、案内カウンターではテレビ電話で手話で対応できるサービス、声を聞こえやすくする磁気ループが設置されたりしました。聴覚障害者にとって大切なのは、情報が音だけでなく目で見ても分かることです。
初瀬 聞こえる世界と聞こえない世界の、まさに橋渡しですね。僕は大学時代に視力を失っていますから、松森さんと同じで見えている世界と見えない世界の両方を知っています。障害者雇用を支援する立場で言うと、そこが僕の一番の強みになっています。
松森 聞こえる人と聞こえない人。お互いにコミュニケーションを取るのが難しいと感じているのですが、お互いにコミュニケーションの方法を知れば、もっともっと豊かな社会になるのになぁと思いますよね。もったいない(笑)。
初瀬 その気持ちよくわかります。コミュニケーション手段ということでは、僕にも聴覚障害の友人がいますが手話を覚えると楽しいですよね。仕事の面では、僕は見えないけれど耳は聞こえる、彼は見えるけれど聞こえないわけですから、資料は友人に作ってもらって、僕が電話をするなんてこともできるわけで、お互いが補い合えば仕事ができてしまうんです。それが楽しくもあり、視覚障害者と聴覚障害者の組み合わせはいいんですよ、とっても(笑)。
松森 お互いに障害があるから、困ることを想像しやすいですし、補い合えば最強のコンビにもなれるということですよね。私にも弱視の友人がいて、補い合って凸凹コンビなんて自分たちで言っています(笑)。楽しいですよ。見えない人が手話を使って私に話し掛けたりしていると周りの人たちがびっくりします。
初瀬 いいなぁそういう光景。それを多様性のある社会と言うんでしょうね。
みんな歳をとれば目は悪くなるし、耳だって遠くなるんですから、耳が聞こえない、目が見えない僕らが暮らしやすい社会を作れば、超高齢化社会を迎える日本にとっても暮らしやすい国なるということです。
松森 そう、みんなこれから少しずつ老化していくのですから(笑)、今のうちに暮らしやすい社会にしておきたいですよね、ウフフ……。目が見えなくても、耳が聞こえなくても、だれもが安心して暮らせる社会を築きたいですね。