2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月3日

 社説は今回の三国間演習の実施に日韓関係の改善が貢献したことを強調していますが、中韓関係の変化も重要な要因と考えられます。中韓関係は最近まで「中韓蜜月」といわれるほど良好でした。昨年9月韓国の朴槿恵大統領は、中国の対日戦勝70年の軍事パレードに出席し、良好な中韓関係をアピールしました。韓国の中国接近は、韓国にとっての中国の経済的重要性のためと指摘されてきましたが、北朝鮮ファクターもあったと思われます。韓国は中国が北朝鮮に対する影響力を行使して、北朝鮮の核、ミサイル開発を抑制してくれることを期待していたものと見られます。

 しかし、最近の北朝鮮の一連の核、ミサイル実験の実施で、韓国はこの期待が幻想であったことが分かったのではないでしょうか。韓国は一連の実験に関し北朝鮮を強く非難するとともに、中国と一定の距離を置くようになりました。今回の三国間演習への参加がその一例であり、THAADの韓国配備に向けた動きが今一つの例です。韓国が、中国が北朝鮮に核、ミサイルの開発を抑制するよう圧力を加えることを期待していたとすれば、北朝鮮に対する中国の影響力を過大評価していたと言わざるを得ません。

 THAADに関しては、米国は2014年頃より韓国への配備を提案してきましたが、韓国は中国の強い反対があって躊躇していました。中国はTHAADシステムに含まれるXバンドレーダーが、1000キロを超える探知距離を持ち、中国領にまで及ぶことに強い懸念を持っているものと見られます。THAADのXバンドレーダーはグアム島設置のXバンドレーダーとデータリンクされ、日米所有のイージス艦のレーダーと連携すると言われています。

 しかし、最近になって韓国の態度が変わり、カーター米国防長官は去る3月22日、米議会の公聴会で、米韓両国が韓国へのTHAADの配備につき原則合意した、と述べました。他方、韓国の韓民求国防長官は、6月初めのシャングリラ対話で、THAADは配備されれば、北朝鮮のミサイルに対応する能力の向上に役立つと述べ、6月29日には韓国国会での質疑で、「年内に結論が出るのではないか」と述べたと報じられています。

 韓国国内には現在でも対中配慮からTHAADの配備に消極的な向きがあるようですが、政府は配備を決めたようです。配備計画がすんなり進んでいないのは、対中配慮からではなく、地域住民の反発が予想されることから、配備の場所の選定の問題があるためと報じられています。

 韓国が対中配慮にこだわらず、米国との関係を再び重視するようになったのは、日本としても歓迎すべきことです。韓国の安全保障のカギを握っているのは米国で、安全保障は中国と米国を天秤にかける問題ではありません。日本も、今後とも米韓と安全保障面での協力を強化すべきです。

  
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